だがそんなことを口にすれば、弟たちは俺を巻き込んだ上で面倒くさいことに発展する予感がした。
なので知らないフリを決めこうとしたのだが、弟の仲間の一人であるドッペルは目ざとかった。
「マスダの兄ちゃん、何か思いついた?」
「……いや、別に?」
「本当にぃ?」
弟たちの眼光が鋭い。
観念した俺は白状することにした。
「……本当に大したことじゃないぞ」
「それを決めるのは俺たちだ」
「……ガイドと名乗る、未来から来たとかいう人間がいるのは知っているか?」
だが、あいつの持っているアイテムの力が本物であることは、みんな薄々分かっていた。
或いは、と考えたのだ。
「なるほど……だめでもともとか」
「でも、今度はその自称未来人さんを探さなきゃいけないのかあ……」
「もしその人が本物なら、下手すれば既に未来に帰っているかも」
微かにさした光明も、その筋道のなさに弟たちの表情は曇るばかりだ。
「何だお前たち、知らなかったのか。その未来人は、いまシロクロのとこに居候しているんだぞ」
「ええ!? 本当かよ、シロクロ」
弟たちにとって、それは意外な人物だったようだ。
まあ、シロクロは身の上話をロクにしない上に、言動が怪しくてコミニケーションが難しい人物である。
なので、それを当たり前のように受け入れていた弟たちにとってはむしろ意外だったのかもしれない。
「なんで、今まで言わなかったんだよ」
「プライバシーポリシー!」
シロクロが分かるような分からないことを言う。
「そ、そうか……」
未来人は俺に門前払いされた後も何件か周ったらしいが、結局信じてもらえなかったようだ。
任務が終わるまで帰ることができないので途方に暮れていたところを、通りがかったシロクロに拾われたらしい。
まあ、シロクロは“アレ”だから信じるだろうな。
或いはシロクロ自身、謎の多い人間だから波長が合うのかもしれない。
ただ信じてもらえてもシロクロに話が通じているわけではないから、任務を遂行できず宙ぶらりん状態、といったところだろう。
「シロクロも大概だよな。そんな胡散臭い奴を住まわせてやってるとか」
「アイマスト! ゴードゥ! グッドシングス!」
シロクロが分かるような分からないことを言う。
弟たちはシロクロの発言を受け流す。
その後、十数秒かけてそれっぽい理屈を並べてシロクロを言いくるめ、自宅へ案内してもらうことになった。
そしてガイドと知り合いであった俺は、仲介役ということで付き添う羽目となった。
調査から数時間、弟たちは行き詰りを感じていた。 「んー、何でみんな曲は聴いたことあるくせに、歌詞は知らないんだろう」 「ここまで知らない人ばかりってのは変だよ。みんな気...
音楽というものは俺たちにとっても馴染み深い文化だ。 そして、時に人は音楽というものに何を求めるか、それは何かであるかということで苦心する。 個人が望むと望まざるとかかわ...
≪ 前 着いた場所は、人通りの少ない場所にポツリと一軒家が存在しているという不気味ものであった。 そこそこ都会だと思っていた俺たちの町に、こんな閑散とした場所があったこと...
≪ 前 こうして書き起こされた歌詞だったが、弟たちの予想を悪い意味で裏切った。 やたらと詩的で難解というわけでも、かといって下品で低俗な歌詞でもなかった。 何というか……...