「その距離を保つんだ。それ以上は近づくとバレる可能性が高まる」
固まって行動するのは危険だとミミセンが判断し、追跡役は変装が得意なドッペル一人に。
他はドッペルから更に離れてついていくことに。
相手に少しでも不審に思われたら追跡役を交代するか、最悪シロクロとタオナケに撹乱してもらう作戦にした。
万全の体制は過剰とも思えるほど、追跡は順調であった。
街頭にいた信者や野次馬が、今は嘘のようにいなくなっていたことも大きい。
だが、あまりにも順調すぎて気を緩めていた一同は、ある重要なことを失念していた。
「! しまった、駐車場だ! あの教祖、車で逃げるつもりだ!」
予想外の事態にミミセンも動揺を隠せない。
それが予想外であったことよりも、予想外にしてしまった自身の不甲斐なさが、何よりミミセンにとってショックだったのだ。
だが、こんなときでも冷静に、目的を見据えて行動できるのが弟の強さであった。
そして、それが弟が彼らのリーダー的存在である最大の理由でもある。
「落ち着け! むしろチャンスだ。いま教祖は一人、しかも車で来ているなら、その中に“何か”あるんじゃないか?」
弟の言葉にミミセンも平静さを取り戻し、すぐに思考を巡らせる。
「そうだ! タオナケの超能力でタイヤをパンクさせるんだ。そうすれば予備のタイヤを取り出すために荷席のドアを開けるはず。その瞬間を狙うんだ!」」
だが、ここでまたアクシデントが発生する。
1回念じるのに数秒かかるのだが、ここまでの追跡で体力と精神を削っていたため普段よりも時間がかかっていたのだ。
しかも、既に5回以上は念じていたのに成功しないという運の悪さである。
諦めかけた弟たちに、千載一遇のチャンスが舞い降りる。
教祖は車に乗り込まず、おもむろにバックドアを開けていたのだ。
「天は俺たちを見放していなかった! 強行突破するぞ!」
弟の合図で、全員で車に向かって走り出す。
「な、なんですかキミたち、いきなり」
荷席の中を覗いた一同は、大量に入っていた意外なものに驚く。
「……水だ」
「他に印象的だった事例だと、『サソリ事件』か」 「なにそれ?」 「我もよくは知らないが、一昔前にとある宗教団体がサソリをばらまくっていう事件があったらしい」 「なんでそ...
その日の昼頃、某所の街頭では「生活教」教祖による布教活動が繰り広げられていた。 「教祖様、トイレのときは小のときでも座ってするべきですか」 「基本的に排泄物は不浄なもの...
「やあ、マスダ」 「あ、センセイ。どうも」 俺が通学でよく利用するバスで乗り合わせる人で、何度か見かける内に話すようになった。 センセイといっているが俺が勝手にそう呼ん...
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