その日の昼頃、某所の街頭では「生活教」教祖による布教活動が繰り広げられていた。
「基本的に排泄物は不浄なものが宿る。これを浄化するためには座ることが効率がよいのです。当然、それを浄化する水には精霊が宿るので、人が見ている状態で流してはいけない。蓋をしてから流しなさい」
「野菜もいいが、色んな野菜を食べなさい。根も、葉も、茎もあらゆるものを。これは野菜に宿る精霊が兄弟だからです。かといって精霊は核家族ではないので、野菜ばかりでもダメだ。他のものもバランスよく食べなさい」
周りから「おー」という声が響き渡る。
弟のマスダとその仲間たちは、その様子を離れたところから訝しげに眺めていた。
「キチ?」
「分かりきっている概念ってことだよ」
「私、理解できないんだけど、あれであんなに人が集まるのは何で?」
「なんというか、上手く言えないけれど不気味だなあ」
「うーん……」
弟たちのボキャブラリーでは、「生活教」についての違和感を語ることは困難を極めた。
そんな弟たちにとって、理解できないものはただただ否定するしかなかったのである。
「そういうのは“胡散臭い”というんだ」
唸っている弟たちの前に現れたのはウサクだった。
友人との待ち合わせ場所がここだったらしく、待っている間の暇つぶし目的で弟たちの会話に入ってきたようだ。
「胡散臭い……」
「信用できないってことだ。何か裏があるんじゃないかと疑うのだ」
「“裏”って?」
「過去の事例から考えるなら、政界進出とかだな。あの教祖か、或いは近しい信者が政治家になるってことだ」
「関係のある無しは関係ない。信者をそのまま支持者に代えるための活動だからな」
当初、得意げに話していたウサクが、マスダの問いに固まる。
どうやら、その答えは用意していなかったようだ。
「……分からん。現状、あの宗教から大した思想がまるで読み取れないからな」
「じゃ、じゃあ他の事例でいいから言ってみてよ」
そう言う事ならと、ウサクは調子を取り戻して話を続ける。
「やあ、マスダ」 「あ、センセイ。どうも」 俺が通学でよく利用するバスで乗り合わせる人で、何度か見かける内に話すようになった。 センセイといっているが俺が勝手にそう呼ん...
≪ 前 「他に印象的だった事例だと、『サソリ事件』か」 「なにそれ?」 「我もよくは知らないが、一昔前にとある宗教団体がサソリをばらまくっていう事件があったらしい」 「な...
≪ 前 「その距離を保つんだ。それ以上は近づくとバレる可能性が高まる」 弟たちは確信を求めて教祖の追跡を始めた。 固まって行動するのは危険だとミミセンが判断し、追跡役は変...
≪ 前 荷席にあったのは、大量の飲料水だった。 それらは見覚えのある市販のモノで、未開封であり何の変哲もない。 予想外の代物に弟たちは肩透かしを食らうが、数秒の沈黙のあと...
≪ 前 ところかわって兄の俺は、同級生と喫茶店で雑談をしていた。 ウサクやタイナイ、カジマたちといった面子である。 「今日、最初の待ち合わせ場所だった広場さ、例の宗教のや...