タオナケの序盤の妨害も結果的に弟とその他の参加者の差を広げることとなり、ドッペルの意外な助けもあってダントツトップを維持し続けた。
その後のアトラクションは逃げ切りを防ぐため、先行する人間に不利な仕掛けが多く施されていたが、それでも弟との差を他の参加者が縮めることは出来なかった。
「いいぞ、息子よ。そのまま逃げ切ってしまえ!」
その勇姿に、プレゼントを突っぱねた両親すら声援に熱を帯び始める。
こうして弟は、最後のアトラクションを潜り抜け、サンタのもとにたどり着いたのであった。
弟がサンタに真っ先に言うべきことは決まっている。
息を荒げながら、サンタに満面の笑みで言う。
「バーチャルでリアリティのやつをください。ボーイのやつじゃないですよ」
弟はそう言った後、アトラクションへの達成感と、その成果を得られる喜びを噛みしめていた。
「頭が悪くなるぞ。あと目とかも」
さて、このサンタが実は父だった、という展開なら話としては綺麗だが、生憎別人である。
両親は、俺の隣で一緒に観戦しているからだ。
つまり、サンタもまたつまらない大人の理屈で、子供の願いを突っぱねるような人間だったということさ。
サンタなんていないと気づかされるか、サンタが理想とは違った人格だったか、いずれにしろその時の弟にとっては残酷であることには変わらない。
こうして、弟は結局目当てのものを手に入れられなかった。
だが、意気消沈して帰った自分の部屋に、まさかの代物があったのだ。
「管轄?」
「いや、お前のではないからな?」
弟の勇姿に胸を打たれたのか、実はそのイベント後に両親はアレをこっそり買っていた。
だが一度、突っぱねた体裁がある以上、直接プレゼントとして渡すのは甘いと思ったのだろう。
なので名目上は俺が自分のために買ったということにしたのである。
まあ、俺はあのテの玩具に興味がないので、実質的に弟のモノというわけだ。
大人と子供の境界を反復横とびしなきゃいけない俺ならではの役割ではある。
当然これをネタに、俺は両親から相応に色をつけてもらうつもりだが。
どうしても欲しいならバイトをしているから買えるんだが、プレゼントってのはまた別の話さ。
何を贈るかってのも大事だが、誰が送るか、どう送るか、つまりそこに込められた思いも大切だ。
その点で、弟の手に入れたアレは、サンタから貰うよりも遥かに特別な意味を持っているといえる(当事者に自覚があるかはともかく)。
もしかするとサンタはそこまで考えて、最もよい方法で弟のもとに目当てのものを届けた……ってのは深読みしすぎか。
いずれにしろ、一見すると無駄な遠回りをしながらも、弟にとって素敵なクリスマスとなったのだった。
「うーん、ちょっと遠いなあ。弟の姿が見えない」 「大丈夫よ、私にはズーム機能つきモニターが付いているから」 「ああ、そういえばそんな改造したことあったっけ」 母が首にコ...
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