「耳をすませば」というスタジオジブリ製作の劇場アニメをご存知だろうか。
時折金曜ロードショーで放映され、その度に大きいお兄さん達を鬱に追い込んでいる悪名高き作品である。
映画が公開されたときは1995年で、僕は当時高校1年生だった。
あの頃、自分の雰囲気を天沢聖司に近づけたり、言動もちょっと彼を意識していた。今思うと痛い奴だと思う。
そうして、図書館に通いつめた。それまであまり本を読まなかったのに。
最初はポーズだったけれど、本は読んでみると面白くて、すっかり読書家になった。
今は、少し本に関わる仕事をしている。人生というのは不思議なものだ。
僕は引越しが好きだ。そして、引越し先の近くに図書館があるというのが譲れない条件のひとつになっている。
一年ほど前に今の家に越してきて、休日や仕事の後に近所の図書館に通い始めた。都会の図書館というのはかなり遅くまで開いているのだ。
そのうち、ある女の人にいつも遭遇することに気が付いた。二週間に一回ほどの頻度で彼女の姿を見た。
館内を長時間うろうろして本を選び、いつもどっさり借りていく。
彼女の年齢はよくわからなかった。二十歳~三十歳の間のどれでもおかしくはない。
長い髪をひとつにくくって、素朴な感じで化粧っ気のない人だ。
でも、いつも分厚い本を抱えてちょっと嬉しそうにしていて、何だかシンパシーを覚えた。
知り合いというわけじゃないし、そもそも彼女は僕を認識しているとは思えないから、当然挨拶なんかしない。
が、図書館に行く準備をしているとき、何だかそわそわするようになってきた。
でも、僕は声をかけることができないでいた。
目利きの店員がいるこじんまりとした書店も好きだが、やっぱり全国区レベルのでかい書店が便利で好きだ。
僕の一番好きな本屋は近くにないのでそんなに頻繁には行かないが、ときどき訪れていた。
ちょっと前、久々にその本屋に行ったら、なんと、例の女の人を見かけた。文芸書コーナーで。
きっと彼女はあの図書館からそう遠くない場所に住んでいるだろうから、もしかしたら僕と行動パターンが似ているのかもしれない。
だけど、やっぱり僕は声をかけることができなかった。
だいたい何て話しかければ良いんだ。
気持ち悪く思われるだけならいいかもしれないが、僕のせいで彼女が図書館や本屋に行きづらくなったら可哀相だ。
でも、ここは昔の学校の図書室ではないので、貸し出しカードのような魔法のアイテムはない。
どうやって物語を始めたらいいのだろう?
コンビニの美人に声をかけたらおつきあい成立したって話もリアルであるので 気になってたんですけど今度お茶でもどうですか、と言ってみる他ないのでは
ヨーロッパの(ある)大学では、図書館でナンパするのが結構ふつうだと聞いた。 あんまり重たくならず、でも真摯に、あなたの感動を相手に伝えられたらどうだろうか。 うまくいきま...