自分より学歴の高く自分より年齢が低い者に説教することに悦びを見出す人たちがいる。彼らにとっての恰好のターゲットは医学生である。彼らは医学生に「良い医者にならなきゃダメだぞ」と説教して学歴コンプレックスの鬱憤を晴らす。
「彼ら」は医学生だけを標的にする。本当はエンジニアや官僚や教員や研究者や薬剤師やアナリストやクォンツを志望する学生にも説教をしたくてたまらないが、できない。それは、「彼ら」はエンジニアや官僚や教員や研究者や薬剤師やアナリストやクォンツが何をやっているか知らないからだ。高学歴者の就く職のなかで彼らが辛うじて理解できるのが医者だけだ。だから医師志望の学生に集中的に説教をする。
外来や臨床で患者と向き合う時間は医者の職務のほんの一部でしかないのだが、「彼ら」はここを攻撃してくる。先日入院したときの医者はとんでもないやつだった、患者の目を見ない、難しい用語で説明する、患者の話を途中で切る、親身さが感じられない、看護婦からも嫌われていた ( 「彼ら」はいまはもう看護師と呼ばれることなど知らないし、まして「パラメディカル」だなんて単語は聞いたこともない。病院にいて医者でない人間はみな「看護婦」なのだ ) だのと、礼儀上の不備をまくしたてる。礼儀に関することは、どんな学識のない人間でも一家言持てることである。「彼ら」の得意領域はここだ。礼儀正しいだけで病気が直るならば医学は要らない。全国の公立中学校の野球部員をかき集めてきて白衣を着せて医者に任ずれば良い。現実がそうでないということはやはり医師にとっての必須の素質はそこではないということだが、「彼ら」は気づかない。
病人はわかりやすい弱者である。だから病人に対する態度は道徳的文脈から非難しやすい。加えて、医者の給料は税金から出ているから、「彼ら」にとって自分も何か言って良いという認識を持ちやすい。
こういう人、本当にたまにいる。 ただ、医学生だけってことはないと思う。 コンプレックスかどうかは分からないけど、マウンティングみたいなものだろうな。