2017-01-28

疲れた人は頼むから寝て(自殺未遂の話)

私は仕事のできる人間だった。少なくとも自分ではそう思っていたし、周囲もそのように言ってくれていた。

新卒で入ったその会社は、いわゆる頭のいい人間がたくさん入ってきていた。自分の頭の良さに自信のあった私は、なんとかしてこの大量の同期のなかで活躍してやろうと鼻息荒く社会人として働きはじめた。

とにかく量をこなし、元気よく、礼儀正しい態度を心がける。

結果はすぐについてきた。一月もすると直属の上司から半年でその上の人から、名指しで褒められるようになった。書類の量が増えた。上司企画した仕事に参加させてもらえるようになった。

直属の上司はやたら部下に厳しくて、やたら仕事ができた。男女問わず上司の机の前で直立不動で叱られている同期を何度も見かけた。いつもピリピリしていて、ミスを指摘して声を荒げることも多かった。部下からの評判は当然よくなかったが、指導の正確さと仕事ぶりで悪評を打ち消しているような人だった。

その人に怒られたらどうしようという恐怖と、自分能力に期待されているという自信と重圧で、自然仕事に力が入った。

明らかにキャパティを超えた仕事対応するため、私は睡眠時間を削るようになった。当然頭は鈍るし体も重い。それでも仕事をこなすと上司は私を褒めてくれた。そしてまた量が増える。

その頃から少しずつ、体に異変を感じるようになった。駅の階段を登るだけでひどく息切れする。なにを食べても美味しいと感じない。食欲がないのに夜食を吐きそうになるまで食べる。

自分ではおかしいと思わなかった。すでに不調を感じ取れる精神状態ではなかったのだと思う。ただ、こんなことでへばるなんて自分根性がないな、と思っていた。自分無能さに腹が立った。

1日の睡眠時間は最終的に4時間半ほどになった。もちろん足りているはずがなくて、1日の三分の一ほどは朦朧として過ごしていた。油断すると意識が飛ぶ。集中力が欠け、ミスが増えた。そのミスを補うためにまた時間がかかる。悪循環だった。

だんだん仕事がこなせなくなって、上司から褒められることもなくなった。それでも必死仕事をしていた。頻繁に頭痛と気分の悪さを覚えるようになり、書いた文字が後で読み返せないような震えた筆跡になっていても、まだ私は自分の体の状態に気がつかなかった。

ある日、上司に怒られた。最近仕事ミスが多い、怠慢だと。今まで何度も見たように、上司の机の前に立たされて、怒られた。

その時の私は、間違いなく仕事のできない駄目な社員だった。

もうだめだ、死のう、と思った。

そう思うと、少し気が楽になった。会社や近所の高い建物に登って、飛び降りられそうな場所を探した。ドラッグストアで、塩素系と酸性の洗剤を買った。駅のホームで、電車がくる直前に飛び降りイメージを何度もした。自殺のことを考えている間だけ、すっかり嫌になってしまった仕事のことを忘れることができた。

自殺方法飛び降りに決めた。近くに外階段を使って登れるビルがあった。ぐちゃぐちゃになった死体を片付ける救急隊の人には申し訳ないけど仕方ないな、と考えていた。

それからしばらく経った日、仕事中に、人の話していることがまったくわからなくなった。日本語を聞いているはずなのに、脳が言語として理解できない。相槌すら打てない。音の羅列を聞き流しながら、潮時かな、と思った。

その日の帰りに例のビルに登った。上から見下ろすと、地面は意外と近く感じた。

端に足を掛け、踏み出せば落ちる、というところまで来ながら、どうしてもあと一歩が踏み出せなかった。

死にたくない、という気持ちと、自殺すらできないなんて私は本物の無能だ、という気持ちが湧いてきて、ぼろぼろ泣きだしてしまった。

家路を辿りながら友人に電話をかけた。久しぶりに声を聞いた友人に、「ごめんなさい、死ななきゃいけないのに、死ねなかった」と何故か泣きながら謝っていた。そのあと両親に連れられて実家に帰ることになり、私は会社を辞めた。

あの会社はいわゆるブラック企業ではなかった。私が勝手にたくさんの仕事を背負い込み、睡眠時間を削り、精神病み仕事を辞めた。それだけの話だ。

自分能力を最大限生かして仕事をしたかった。少なくとも働きはじめてしばらくの頃はそれができていた。仕事がとても楽しかった。

今は実家で静かに暮らしている。就職のため資格勉強をしているが、今でも当時のことを思い出すたびに涙が止まらなくなる。

今、社会でがんばって働いている人はとにかく睡眠大事にしてほしい。睡眠を疎かにすると精神に悪影響を及ぼす。自分が何をしているか、どんな状況下にあるのかすら分からなくなる。私のようにならないために、何があっても睡眠第一に考えてほしい。切実な願いだ。

少し特殊会社だったので何箇所か事実と異なる表現をしていますが、私の症状・心境に関してはすべて実際にあったことです。

拙い文ですが、読んで頂いてありがとうございました。

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