帰宅して、ちょうど玄関の鍵を開けているところで電話がかかってきた。
その日は、
電車に乗っていて2回、
駅の改札を出たところで1回、
うんざりしていたのだがカバンから鍵を出してゴチャゴチャしているときに、
もう一度電話がかかってきたのでちょっとキレ気味に電話に出てしまった。
靴下を脱いだり、
スピーカーに切り替えて手を洗っているうちに
もう電話がかかってくることはない。
ホッとして電話を切り、あんまり簡単にイライラしたら駄目だなと反省しながら
いつものように家の鍵と定期券を玄関の棚に置こうとしたところで
パスケースがないことに気づく。
これは大変だ。
というのもパスケースの中には定期券と健康保険証を入れていたからだ。
身分証明書になるものを紛失すると色々と厄介なことが起こりかねない。
再び沸点まで気持が上がりそうになるが、いやいや待てよ。
探せば出てくるだろうと落ち着きを取り戻してカバンの中を覗き込む。
でも、ないんだよなあ。
うっかり無意識に家の何処かに置いてしまったのかもしれないと探してみるが全然みつからない。
いつも定期券は外付けの紐付き定期入れで持ち運んでいる。
でも紐が切れてしまったので仕方なく別のパスケースに入れていたのだが、
運が悪いときには色々と重なってしまって困ったことが起きてしまう。
すっかりと疲れていたし、夜も遅い時間だったのだが仕方ない。
脱いだ靴下をもう一度履き直すか洗濯したものに履き替えるか考えてから、
駅のほうへとパスケースを探しながら夜道を歩いて行った。
が、幸い街灯はしっかりとしている道なので定期券を探すのには困らなかった。
すっかり疲れてしまっていたし暑いし、これ以上探し回るのは無理だ。
駅で落とし物の問い合わせをした後、
はー、っとため息が出た。
その日は本当に色々と疲れた一日だった。
秋になって気温の低い日が何日か続いた。
私は雑で無精な性格をしているのだが
冬場に使っていたちゃんちゃんこ代わりの
薄手のダウンベストを春夏の間もかけっぱなしにしていた。
ふとポケットの中に手を入れると、
紛失したパスケースが出てきた。
うーん?ここか?
いや、どっかからひょっこりと出てくる可能性も高いよな、と思ってはいたんだけど、ここか?
どうやってパスケースを取り出してベストのポケットに放り込んだんだろ?
今となってはわかるすべもないから考えても仕方がないが、
とチラッと一瞬思ったが、もちろんそんな必要はない。
今のところは。