日本一有名なイタリアンレストラン、の名称が長いので、略してサイ〇と呼ばせてもらう。
今から15年程前になるが、近所のサイ〇のキッチンでバイトをしていた。キッチンでバイト、というのは、つまり調理専門の方でバイトをしていたという意味。
当時母親から「お前はバイトの面接に受からないだろうから、土日の11時から2時までだけ働けますと伝えろ。」と言われて、その通り伝えたら、採用された。
今思えば当たり前だが、いわゆるピークタイムにしか入りませんという意味だったので、周りは私に仕事を教える余裕もなく、私も丁寧に仕事をしている余裕はなかった。
そんなピークタイムだったが、キッチンは基本二人だった。今もそうかは分からないが、当時はテーブルでオーダーを受けると、それがキッチンの機械に転送されて伝票が出てくるシステムだった。調理が完了して出したら、その伝票を処分するというシステムだったが、全然処理しきれず、伝票がとぐろを巻き落ちていた。
驚くべきことだが、キッチンでは包丁も火も使う必要がなかった。それでどうやってパスタやサラダやハンバーグを作っているの?と思うだろうが、基本的に調理済み&IHだった。
私の記憶では、例えばペペロンチーノを作るときは、パックに入ったゆでパスタの袋を開封し、鍋にいれる。「スープ」と呼ばれていたIHにかけられ温められている鍋からお玉で1杯すくい、鍋に投入。確かふたをして規定時間(数分)火にかけ、ふたをとったら「ぺぺロン」とかそんな略称が書いてある、インスタントラーメンのスープみたいな小袋を開封して入れてぐるぐる混ぜて完成。色んな種類のパスタは、このラーメンスープの小袋が違うだけ。それを、IHコンロ3つくらいを同時に常に回しているという感じだった。
サラダはあらかじめ大量に用意して冷蔵しているので、ベースの葉物にそのメニューのトッピングとドレッシングをかけて提供。
また、焼く系の料理は、ベルトコンベアーが常に動いているオーブンがあり、既に成型済みのハンバーグだかムール貝だかドリアだか、そういうのを皿にのせ、コンベアーに流すだけだったので、一番楽だった。
また、皿がなくなってしまうので、下げられたお皿をお湯だけでスポンジでこすって大きな汚れを落とし、食洗器にかけるというのを度々行っていた。
ところで私は、このバイトが人生初のバイトであった。この、「サラダ作成・パスタ3つ/オーブン調理・皿洗いを同時並行で行う」というのが、まるでできなかった。学校では、こんなに時間が差し迫った状況で急いで同時並行で仕事を行うという状況に置かれたことがなく、バイトをして初めて気付いた。パスタを何度も焦がしたし、サラダのトッピングは次の土日には忘れてしまい、いつまでも覚えられなかった。
やけどもするし、厨房は暑く、休憩はなかったので、とても大変な仕事だった。ただの苦行だった。私はお金が必要ではなかった。欲しいものもなかった。ただ、バイトというのをやらなくてはいけなくて、それは母親に言われたとおりにやるべきで、どんなに嫌でも我慢してやり続けなくてはいけないと疑問を持たずにやっていた。
そしてあれから15年が経ち、私は総合職として働いている。相変わらず、同時に仕事をこなすことは苦手だ。給料は、当時の20倍くらいもらっているが、サイ〇のピークタイムのキッチンに比べたら、全然大変じゃない。
サイ〇=サイゼリヤ
サイ〇ってそういう調理でコストダウンしてますって公言してるから別に驚くべきでもないよな