10年前の夏の夜、東京のどこかの雑居ビルのエレベーターのなかで、ボタン操作をしていた30歳くらいのサラリーマンの方へ。
同じエレベーターのなかで、迫りくる大口取引先の40代男性から、もはや泣きそうになりながら、引きつった笑顔で逃れていた私です。
あの時あなたは、なんとなくを装って、酔ったセクハラ取引先のおじさんと私の間に背中を割り込ませてくれましたね。
貴方がセクハラおじさんを軽蔑の眼差しで一瞥したあと、私に助け舟を出しくださったこと、私は気付きました。あなたの行動と正義感、助け舟に今も深く感謝しております。その節は本当に本当にありがとうございました。
私は23歳の新社会人で、本配属されたばかりで、あの日は人生で初めての接待でした。
私達は直前まで、接待の二次会として、上階のカラオケ屋にいました。上司と取引先のおじさんと私の三人だけの宴席で、私はそこからすでにセクハラを受けており、肩を撫でさすられたり、肘で胸の横をつついたりされていました。
「失礼のないようにね!」と送り出されたその場所で、大口大手取引先の担当者ということもあり、私はどんなことがあってもニコニコしないといけないと思い込んでいました。
同席していた上司の課長は盛り上げに徹しており、助けてくれず、取引先おじさんのセクハラはどんどん熱が篭っていくようで私はもう泣きそうに引いており、しかし何と言って良いのかも分からず「いやいやそんな笑」「えぇ〜笑」などと冗談まじりに口に出してみて、接待の対面を保ちながら、なんとか抵抗しようとするのが精一杯でした。けれど40代おじさん取引先は上機嫌になるばかりで、ついには握られた手の甲を舐められるほど、私は舐められておりました。
男性が怖い、大人が怖い、社会が、仕事が怖い…おじさんがキモい…上司もだれも助けてくれない…
そんな絶望感でいっぱいになりながら、雑居ビルにあるカラオケ屋をでたエレベーターの中、酔っ払いセクハラおじさんは私の髪の匂いを嗅ごうとこちらに体を傾けてきました。
エレベーターのなかは、私とセクハラおじさんと助けてくれない上司と、あなたでしたね。
私は見知らぬ他人の前でもこんな風にセクハラされるのかと、恥ずかしさと惨めさと絶望感でいっぱいだったそのとき。
助けてくれて、本当にありがとうございました。
あのエレベーターから降りてなんとか接待から脱兎し、帰路につき最寄駅についたときには、駅前のベンチに座り込みボロボロと泣くくらいショックな出来事でした(なお同時にセクハラ担当者からは「付き合ってほしい」とメールが入ってきていました)
男性が嫌悪する対象になりそうでしたが、セクハラ野郎を軽蔑の眼差しで一瞥し、助け舟をだしてくれたのもまた見知らぬ男性だったことも、ずっと覚えていようと思い、思い直しました。
あなたにとっては大したことではなかったし、気持ち悪いからなんとなくとった行動だったかもしれませんが、あの時、絶望感でいっぱいだったとき、本当に救われた気持ちになったのです。
最近とある動画をみて、改めて感謝の気持ちを覚えたけれど、お礼を伝える術がないのでここに書き記します。あの時の親切、一生覚えていると思います。本当にありがとうございました。