突然の訪問だったが、知り合いの保育士がいたためスンナリと入ることできた。
「おー、マスダくん。また会えて嬉しいよ」
「久しぶり、先生」
先生はプールの時間、水に顔をつけることすら出来なかった俺を半ば強引に潜らせたことがあった。
この人と対面すると、あの時の息苦しさを思い出して言葉を詰まらせてしまう。
おかげで泳げるようになったわけだから感謝してはいるけれど、だからといって割り切れるものじゃあない。
「それにしても今日はどうしたの?」
「え、いやー、たまたま近くを通りかかったから懐かしくなっちゃって……」
物置部屋の件は伏せて、取りとめもない返事で誤魔化した。
吸血鬼は招待されなければ家の中に入ることが出来ない。
つまり、もし本当にドラキュラが園内にいた場合、奴を匿っている人間がいることになる。
その疑いは園内の関係者全てに及ぶ。
もし俺の考えすぎだったとしても、現時点で“ドラキュラがいるのか確かめに来ました”なんて言うのは賢明じゃないだろう。
こうして先生の案内の下、一通り園内を見て回った。
後は俺に同伴している先生だけどうにかすればいい。
やるなら今のうちだろう。
俺はわざとらしく股間を押さえながら、近くのトイレルームに駆け込んだ。
「おっと、大丈夫? じゃー、終わったら言ってね」
先生は出入り口近くで待機し、さすがにここまではついてこない。
「予定変更なし。みんな配置につけ」
間もなく、俺の入っている個室の扉が開かれる。
「もういいの?」
洗面所で手を洗いながら、そう答えた。
「じゃー次はどこ行く?」
聴こえるのは“俺たち”の吐息だけだ。
「……どうだ、ミミセン。周りに誰かいるか?」
ミミセンはヘッドホンを外すと目を瞑り、全神経を耳元に集中させた。
「私、共用トイレの匂いは気にしない方なんだけど、この湿気っぽい感じは何か慣れないわ」
「水洗の音を聞いてたら催してきた……」
「しっ! みんな黙ってて。音の選別は苦手なんだから……」
敏感なので普段は封印しているが、いざ解放されれば精密な索敵機と化す。
「……音がしない、近くには誰もいないよ」
「よし、行こう!」
≪ 前 意味のない意地を張ったとは思う。 だが張ったからには、自分の思い出に決着をつけなければいけなかった。 あの物置部屋に行って、ドラキュラがいるかどうか確かめなければ...
俺の通っていた保育園にはドラキュラがいる。 そのことを知らされたのは俺が保育園に来て数ヵ月後のことで、その日は何もかもが不自然だった。 保育士の先生は紙芝居の続きを読み...
いい加減つまらないので投稿をやめてくれませんか
≪ 前 ミミセンの作戦は、こうだ。 まず俺が保育園の内部を調べつつ、侵入経路を確保。 それぞれ配置についたらトイレで合流。 そこでドッペルが俺と入れ替わり、同伴の先生を陽...
≪ 前 「ちょっと待って」 事務室前に着くと、ミミセンはポケットから手鏡を取り出した。 それを使って、中の様子を間接的に覗き込むようだ。 「何でそんなもの持ってるんだ」 「...
≪ 前 扉を開くと、中からひんやりとした空気が溢れて俺の肌を掠めた。 「私、冷え性じゃないんだけど、何だか寒気がするわ」 どうやら、それを感じたのは自分だけじゃなかったら...
≪ 前 階段口から、恐る恐る二階への通路を眺める。 踊り場はないようで、10段ほどの短い階段が扉へまっすぐと続いていた。 厄介なのは、横幅が狭くて一人ずつしか上がれないこと...
≪ 前 地震とかで倒れてしまい、たまたま塞ぐような形になったとか? いや、それだけでこうなるとは考えにくい。 つまり意図的に塞がれていたってことだ。 そして、それが出来る...
もりあがってきましたね
≪ 前 俺はまずドラキュラめがけて水鉄砲を撃ち出した。 「や、やめっ……」 察しの通り、水鉄砲で撃ち出されたのは聖水だ。 主成分は水と塩で、ここに聖職者の祈りを込めること...
≪ 前 男は目を泳がせながら、たどたどしく説明を始めた。 「自分は、ここで働く、その、一人で」 俺たちの猛攻がよほど応えていたのか、紡ぐ言葉は途切れ途切れだ。 要約すると...
≪ 前 ………… 後に分かったことだけれど、男の正体はホームレスだったようだ。 日雇いの配達業で保育園に来た際、物置部屋に入ったことが最初らしい。 その時は、荷物を置いた...