男は目を泳がせながら、たどたどしく説明を始めた。
「自分は、ここで働く、その、一人で」
俺たちの猛攻がよほど応えていたのか、紡ぐ言葉は途切れ途切れだ。
住まいが遠くにあるため、帰るのが億劫な日は仕事場で泊まっていたらしい。
「それに、ここの扉を塞いでいたのも、あなたでしょう。何でそんなことを」
「そ、そりゃあ職員とはいえ、こんな所で寝泊りするのは、その、ね? あまり誉められたことではない、だろ?」
要領を得ないけれど、何となく言いたいことだけは伝わる。
腑に落ちないところはあったけれど、俺はそんなことを気にも留めなかった。
ドラキュラがいなかったという事実の方に打ちのめされていたからである。
ずっと感じていた寒気も、単に冷房が効いてただけ。
安堵と落胆が同時にやってきて、体全体を疲労感が包んだ。
正直、俺はドラキュラがいることを100%信じていたわけじゃない。
せいぜい五分五分の半信半疑、いや実際には信じていない割合の方が高かったかも。
それでも思い出の中にあるシガラミが頭をもたげることはあった。
保育園のドラキュラについて話した時、兄貴が哀れな目を向けたのはきっかけに過ぎない。
俺たちは物置部屋を後にし、鍵を返すため事務室にとぼとぼ向かった。
結果が拍子抜けでも、帰り道のことを考えないといけないのがツラいところだ。
「あっ」
そんな油断に付け入るかのようだった。
「えっ、えっ」
保育士は混乱していた。
無理もない。
自分が案内している子供とソックリの人間が二人いて、見覚えのない者達までいるのだから。
「というわけで、先生が話していたドラキュラが本当にいるのか確かめようと……」
保育士は終始、怒ることもなく、落ち着いた様子で話を聞いていた。
当時の記憶ではもう少し怖い人だと思っていたので、その反応が少しだけ意外だった。
「わざわざ替え玉まで用意するなんて……回りくどいことするねえ」
感心するような、呆れるような口ぶりで感想を洩らす。
その穏やかな対応に、なんだか俺たちは気恥ずかしくなった。
ちょっとした罰のつもりなのか、保育士はいじわるそうに尋ねてきた。
「え? 屋根裏?」
けれど俺たちの返答は、保育士が思っていたよりも予想外なものだったらしい。
「マスダ、それ内緒にしてくれって言ってたろ」
ここまできたら全部話そう。
「……そんな人ウチでは働いてないよ」
しかし保育士から返ってきた言葉は、俺たちにとっても予想外なものだった。
「な、なに? どういうこと?」
その場にいなかったドッペルは、状況を把握できずオロオロしている。
≪ 前 俺はまずドラキュラめがけて水鉄砲を撃ち出した。 「や、やめっ……」 察しの通り、放たれたのは聖水だ。 主成分は水と塩で、ここに聖職者の祈りを込めることで完成するら...
≪ 前 地震とかで倒れてしまい、たまたま塞ぐような形になったとか? いや、それだけでこうなるとは考えにくい。 つまり意図的に塞がれていたってことだ。 そして、それが出来る...
≪ 前 階段口から、恐る恐る二階への通路を眺める。 踊り場はないようで、10段ほどの短い階段が扉へまっすぐと続いていた。 厄介なのは、横幅が狭くて一人ずつしか上がれないこと...
≪ 前 扉を開くと、中からひんやりとした空気が溢れて俺の肌を掠めた。 「私、冷え性じゃないんだけど、何だか寒気がするわ」 どうやら、それを感じたのは自分だけじゃなかったら...
≪ 前 「ちょっと待って」 事務室前に着くと、ミミセンはポケットから手鏡を取り出した。 それを使って、中の様子を間接的に覗き込むようだ。 「何でそんなもの持ってるんだ」 「...
≪ 前 ミミセンの作戦は、こうだ。 まず俺が保育園の内部を調べつつ、侵入経路を確保。 それぞれ配置についたらトイレで合流。 そこでドッペルが俺と入れ替わり、同伴の先生を陽...
≪ 前 まずは内部の情報を調べるため、卒園者の俺一人で訪問する。 突然の訪問だったが、知り合いの保育士がいたためスンナリと入ることできた。 「おー、マスダくん。また会えて...
≪ 前 意味のない意地を張ったとは思う。 だが張ったからには、自分の思い出に決着をつけなければいけなかった。 あの物置部屋に行って、ドラキュラがいるかどうか確かめなければ...
俺の通っていた保育園にはドラキュラがいる。 そのことを知らされたのは俺が保育園に来て数ヵ月後のことで、その日は何もかもが不自然だった。 保育士の先生は紙芝居の続きを読み...
いい加減つまらないので投稿をやめてくれませんか
もりあがってきましたね
≪ 前 ………… 後に分かったことだけれど、男の正体はホームレスだったようだ。 日雇いの配達業で保育園に来た際、物置部屋に入ったことが最初らしい。 その時は、荷物を置いた...