2020-08-14

[] #87-7「保育園ドラキュラ

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階段から、恐る恐る二階への通路を眺める。

踊り場はないようで、10段ほどの短い階段が扉へまっすぐと続いていた。

厄介なのは、横幅が狭くて一人ずつしか上がれないことだ。

仕方なく、俺たちは隊列を組みなおす。

「じゃあ俺が前で、ミミセン、タオナケの順で行こう。いちばん後ろは頼むぞ、シロクロ」

「えー、オレが切り込み隊長やりたい!」

シロクロが、これ見よがしに不服のポーズをとった。

俺も戦闘要員のシロクロを一番前にしたいのは山々だ。

けれど何らかのトラブル階段から転げ落ちたとき、シロクロの巨体を俺たちでは受け止めきれない。

不満げなシロクロをなだめて、俺たちは二階を目指した。

ここから先は完全に未知の領域だ。

今までは多少なりとも心に余裕があったが、さすがに体が強張っている。

震えで踏み外さないよう、階段ひとつひとつ慎重に上っていく。

そうして短い階段を一分ほどかけて、俺たちは二階の扉前へたどり着いた。

「……よし、開けるぞ」

自分の中で躊躇いが生まれないよう、俺は考える間もなく扉を開けようとする。

バンジージャンプとか絶叫系のアトラクションと同じで、こういうのは思い切りが大切なんだ。

決心に時間をかけるほど判断は鈍っていく。

「……あれ」

けれど、そんな俺の勇気嘲笑うかのように、扉は開こうとしなかった。

ドアノブを見る限り鍵はついていないのに。

念のため引いてもみたが、やはり開かない。

「建てつけが悪くなってるのかな」

ミミセンはそう分析したけれど、俺の感覚では違っていた。

この手ごたえは、どちらかというと“内側から何かが押さえつけている”ような……

「任せろ!」

俺がその予感を口にするよりも早く、後列にいたシロクロが声をあげた。

「ちょっ、シロクロ……」

シロクロは長い足を使って、前にいたタオナケとミミセンを強引に跨いでいく。

そして扉前にいた俺に覆いかぶさるような体勢でドアノブに手をかけた。

「俺はドラキュラを倒す男! こんな扉に負ける道理はない!」

シロクロはドアノブを勢いよく回すと、体重をかけてグイグイ押し込む。

それに呼応して、扉がミシミシと不吉な音をたてる。

止めようとした時には既に手遅れだった。

「ふんっ!」

シロクロが大きな鼻息をあげると同時に、バキっと鈍い音が響いた。

「よし、開いたぞ」

シロクロは満足げに開いた扉を誇示する。

少し呆れながら、俺たちは中に入っていく。

二階の物置部屋は、一階に比べると小ぢんまりとしていた。

埃をかぶった用具が部屋の隅っこにあるくらいで、棺桶だとか目を見張るようなものはない。

「なーんだ……これのせいだったのか」

扉近くに目をやると、木製の椅子が無残な姿で横たわっていた。

どうやらこれが引っかかっていたせいで開かなかったらしい。

塞いでいた犯人ドラキュラじゃなかったことに、俺は安堵の溜め息をついた。

けれど、それも束の間。

ちょっと待って。どうやってドアを塞いでいたんだ、これ?」

ミミセンの指摘に俺たちは息を呑んだ。

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