30も半ばになり振り返ってみると、ずっとそうやって生きてきた人生だった。
始まりは母だった。そう言うと厳しい家庭だったのかと思われるかもしれないが、逆だ。癇癪持ちというわけでも気が強いわけでもなく、むしろ半端にお嬢様育ちの母は気が弱かったように思う。夫婦喧嘩が起こるたびに私は母についた。そうしなくては母がもたないように思えたのだ。そして、母が壊れてしまうことは私にはとても恐ろしいことに感じた。そんなことが続くたび、私は常日頃から無意識に母の機嫌を取るようになっていた。
両親が離婚したころ、私は思春期だったが特にショックは受けなかった。これで母の精神に安寧が訪れると安心したほどだった。しかしそれからも私は女性の機嫌を取り続けることになった。
同級生から好意を寄せられれば、こちらも気があるようなないような、相手が気落ちしたりしないように振舞った。恋人ができれば、相手の理想の私を演じてみたりした。それらは私にとってとても自動的な行動だった。自分でそうしたいと思っているとか、相手の好意を得たいがためにそうしているとか、そういった感情からくる行動ではない。ただ目の前の女が気落ちすることに耐えられず、私にはそうならないように振舞うほか選択肢がなかったのだ。女が気落ちすることは、私にとって人生最大の恐怖であった。結局最後には私が限界を迎えてすべてを投げ出し、より一層彼女たちを傷つけるとしてもだ。
そんなことをしているうちに、私は現実の女が怖くなり二次元の世界に引きこもるようになった。社会的な活動をやめたわけではなかったが、学生時代のほとんどを引きこもってゲームに費やした。
しかし結局は一緒だった。ゲームの中で仲の良くなった女性とゲーム内で結婚(システム上の優遇があった)したところ、ゲームの中でも現実と同じことをすることになった。彼女がスネれば機嫌を取り、ほかの仲間たちとの間を取り持ち、呼ばれればすぐにゲームにログインした。どんどんエスカレートする彼女の要求は、私のストレスが限界を迎えるまで続いた。
そうこうしているうちに私は社会人となり、学生時代の穴を埋めるようにて女遊びを覚えた。半引きこもりのくらい人生を送ってきたとは言え、女の機嫌を取って生きてきた人生だから、女を口説くことは難しくなかった。考慮すべきは2点、私の容姿に対してマイナス感情を抱いていない女の連絡先を得ること、その女と寝るときに行う最後の一押しをどうするかだけだ。その間にある色々なことについてあれこれ考える必要はない。私は自動的に機嫌をとり続けているのだから。
その後私は引き際を誤り一人の女性と結婚したが、家の中でずっと女の機嫌を取り続けることに大変な苦痛が伴うことは言うまでもない。疲れ果てた私は、結局女に頼った。女は私が機嫌をとり続けている限り私に優しいのだ。もちろんそれも長く続くものではない。ひと時の癒しを得ても、私が彼女たちの要望に応えれば応えるほど彼女たちの要求はエスカレートし、私は限界を迎える。
結果、私には何も残らない。私がしてきたのは女を傷つけることだけだ。私は女たちが傷つくことを恐れるがあまり、彼女たちを深く傷つけ、彼女たちは私から去っていく。全部最初から決まっているのだ。女がいる。私は彼女たちの機嫌を取る。彼女たちの要求は増大する。私は限界を迎える。彼女たちは傷つく。私は一人になる。くそったれだ。全部俺のせいだ。
おまえは女になるべきだった。 そうすれば、すべて解決する。
ワイは美少女やぞ