高校受験、大学受験のたびに「志望校に落ちたら声優を目指そう」と思っていた。今の私はうまいこと受験に受かって、平凡な社会人をしながら声優オタクをしている。
就活がうまくいかないときに、バイト先の後輩にもこんなことを言われた。
私はこの言葉を今でも時々思い出す。
私が奥山沙織ちゃんに出会ったのは彼女と同じくらいの歳だった。デレステを始めたときに初めてきたSRもおそらく彼女だった。秋田県出身で、見た目も冴えなくて、眼鏡をかけた女の子。共通点が多かったこともあって、彼女をシンデレラにしてあげたいと思った。
とはいえ元々リズムゲームが得意ではないので、他のジャンル、他のアイドルにうつつを抜かすことが多かった。ここで出会ったのがsideMの元教師ユニットS.E.Mだった。彼らについては後で詳しく書く。
沙織ちゃんの相方として、一緒にステージで煌めくことができたら。そんな夢を見ることもあった。とはいえ、うまくいかないであろうことは分かりきっていたし、適当に就職して、今はS.E.Mに近い仕事をしている。
平凡な道を選んで、そこそこ楽しくやっていた。そんなときに今年のシンデレラガール総選挙はこの荒れようだ。
待てど暮らせど、奥山沙織ちゃんの相方は現れない。後から出たアイドルは上位に食い込み、声が実装されそうなアイドルもいる。
気が狂いそうになった。
奥山沙織は、私と一緒に歩いて行きたいのかもしれない。そのために、私を待っていてくれているのかもしれない。一緒に眩しいステージで煌めくために、私を待っている。
ずっと諦め続けていた声優という仕事に、彼女は私を導いてくれるんじゃないか。
だが、今からレッスンをして運良く声優を目指すためのスタートラインに立ったとしても、そのときにはもうアラサーと呼ばれる位置になる。どんどん若年化の進む女性声優界隈で、アラサー新人女性声優なんて需要はないだろう。
「夢を追いかけるのに、遅すぎるなんてない」
「思い切ってみなきゃ、起こせない未来って化学変化 賭けみたいなもんだよ、動かなきゃ…何も手に入んない」
やめてくれ、アラサーでアイドルなんて、声優なんて、それで食べていくなんて、できる気がしない。
奥山沙織ちゃんに声が、同じ声をもつ相方ができたら、私は呪いみたいな夢をきっぱり諦められそうな気がする。