彼女に教えられて始めた。彼女はめちゃめちゃこのパズルが得意。
全ての難易度において、スピード勝負で一度も勝ったことがない。
最高難度1つ下のパズルであれば、俺が15分かかるのを彼女は2分で解いたりする。
そんな彼女だが、何故か最高難度だけは頑なにプレイしていなかった。
理由を聞くと
「手持ちの考え方では最高難度は無理」
「というかそもそも無意識にやりすぎててテクニックを体系化できていない」
という。
俺も最高難度は触ったことなかったので初めて触ってみたら1時間かかった。
彼女に解けたと報告。
「凄い、私じゃ無理」「何故そこまで集中力が続くのか」と返ってきた。
その後、「最高難度が解けた」と一枚のスクショが送られてきた。
かかった時間は8分。
素直に感動した。やはり凄い。
心からの称賛を俺が送ろうとするよりも早く、矢継ぎ早にLINEが来た。
「実力ではない。諦めずに解ききる貴方の根性のが凄い。私は凄くない」
……非常に腹が立った。
一度彼女が無意識に実行している思考メソッドの具現化を試みた事があり
その介あって俺の解答スピードは飛躍的に向上したのだ。
それでも一時間かかった。確かに彼女の言うとおりランダム性が介入するパズルではあるが、やはり大事なのは素の実力だ。
彼女は8分で解いた。それなのに実力ではないと言う。
裏を返せば、運さえ良ければ誰でもこのスピードで解けるという意味だ。
確かにパズル開始時に運がいい!と思った事は何度とあるが、前述した通り一度もスピードで勝てたことはない。
はるかに実力を上回る人間が、それより下の人間に対して「私の実力ではない、運がよかった」などと言ってほしくない。
それを言ったところで実力差は埋まらない。敗者は惨めな気持ちになるだけだ。
という意味を込めて、「あまり謙虚になられると嫌味を言われている気分になる」「今の俺はウォーターセブンでルフィとの喧嘩に負けてチョッパーにフォローされるウソップの気分だ」と送った。
彼女は「嫌味を言ったつもりはない」と憤慨した。それもそうだ、彼女は俺の頑張りを認めた上で、その頑張りを自分の実力で毀損しないためにフォローしてくれたのだ。
その気持ちはとてもありがたかった。だが選んだ行動が俺にとって良くなかった。
彼女は自己評価が低すぎる。抑圧的な両親の下で育ち、常に自分の意思を折り、自分が我慢して生きてきた。
その行動原理は仕事でも発揮され、結果として自身のキャパを超えた彼女は心と体を壊した。
それを知っていただけに、きっかけは小さな事だが、これ以上自身を卑下する彼女の姿は見たくなかった。
その気持ちが俺の中で怒りに変わり、「嫌味を言うな」という言葉になってしまった。これは完全に悪手だった。
昨夜はお互いの気持ちを言い合い、俺がもう一度「行き過ぎた謙虚は他人に対して嫌味に取られる場合もある」といい、彼女からは「堂々巡りで話にならない」と返ってきて終わった。
ひとまず朝の挨拶と共に謝ろうと思う。
今後もこういう争いは起こるだろう。
俺が腹を立てるのが悪いのだろうか。できれば、こんな言い争いは避けたい。
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