私が高校生の頃、同じ学年に佐藤さん(仮名)という子が居た。私は2年生の時同じクラスになった。
佐藤さんはなんというか、普通のちょっと地味な子だった。派手なわけではないが、ダサいわけでもない。特別に明るいわけでも暗いわけでもない。卑屈なわけでも不遜なわけでもない。
彼女は学校に来るのが早い方で、私も早い方だった。他に人が居なければ喋る。その程度の仲だった。でも私はその時間が好きではなかった。
彼女と話す時間はつまらなかった。でも何があんなに楽しくなかったのかは未だに解らない。誰かの悪口を言ったりする子ではなかった。普通に好きなアーティストの話などをしていたがつまらなかった。
他の仲がいい友達が来ると、解放されたような気持ちになった。彼女は他の子が登校してくるとすっと「じゃあね」と言って去って行ったからだ。
私は最初、佐藤さんは誰とでも仲良くなる社交的な子だと思っていた。行動を共にする子がいつも違ったからだ。
だが段々とそれはどうも違うらしいと気付いた。彼女は誰とでも仲良くなれるわけじゃなく、特定の仲のいい子が居なくて彷徨っている子だった。
私と私の友人達は、口にこそ出さなかったが彼女が輪に入ってくるのが嫌だった。
放課後どこかに遊びに行こうなんて話して盛り上がっていて、彼女が私も行っていい?と入ってくると0.2秒くらいの間空気が凍った。
断る理由も無いのでいいよと言って一緒に行ったが、だからと言って次から積極的に誘いたいと思う事は無かった。
私の居たグループ?は20人くらいのうすーい繋がりのグループで
(AちゃんとBちゃん、BちゃんとCちゃんは仲良しだがAちゃんとCちゃんは話はするけど個人的にやり取りをするほど仲良くはない、みたいな)
その場に居合わせた人によってその日一緒に居る人が変わる、結構流動的なグループだったが、佐藤さんに対する態度だけは何故か一貫してた。
3年生になり佐藤さんとクラスは離れ、朝に話す事も無くなった。接点は無くなったわけじゃなかったが薄くなった。私の中で彼女の存在は限りなく薄くなった。
とある学校行事で彼女に久々に話しかけられた。何を話したかは覚えていないが、5分程雑談をして私は当番があったのでそう伝えて別れた。
すると一緒に当番になった子から、佐藤さんと仲良いの?と聞かれた。私は仲良くはないけど、去年同じクラスだったから話す事はあるよと答えた。
当番の子はよかったと笑った。そして「今年初めて一緒のクラスになったんだけどあまり得意じゃなくて…」と続けた。
私はなぜかショックだった。当番の子は決して佐藤さんと仲良くするタイプの子ではなかった。強い接点を持つわけでもない人にさえ彼女は嫌われていたのだと知ってしまった。
私が通った学校は平和な学校だったと思う。皆毎日を楽しむのに忙しく、特定の人をいじめたり追い詰めたりする暇は無かったと思う。
佐藤さんの事も、皆得意じゃないとは思いつつ積極的にそれを口に出す事はしなかった。遊ぶ時参加したいと言われれば受け入れた。
でも彼女との交流はなぜだかとんでもなくつまらなかった。妙に苛々して、到底楽しい時間とは思えなかった。
声のトーンやテンションも仲のいい友達と喋る時とは明らかに違ったと思う。
だから自分から話しかけたり、遊びに誘ったり、手紙を書いたりする事は無かった。
佐藤さんの「仲良くなろう」という気持ちに応える事はしなかった。気付かないふりをし続けた。
あれはいじめだったんだろうか。
私達は誰も示し合わせたりはしなかった。不思議と皆が彼女を得意じゃなくて、でもみんなそれを口にしなかった。
当たり前だが暴力を振るったり、物を隠したりもしなかった。
でも今日はこのメンバーだけで過ごしたいなと思ったら佐藤さんの目を避けて打ち合わせをした事はあった。
「皆」の中に佐藤さんを含もうとはしなかった。含もうとすらしなかった。
そこに佐藤さんは私と過ごした朝のひと時について書いている。
私が嫌々過ごしていた毎朝の10分少々が、彼女にとっては1年の思い出だったのだろうか。
卒業からもうすぐ20年経つ。あの時の友人の多くとはもう連絡を取っていない。当然佐藤さんとも。
誰も悪くなくて、誰も意地悪なんてしてないのに、どうしてかそうなってしまった、そのことを今でも気に留めている増田の気持ちがなんだか染みた。 佐藤さん、幸せに過ごせてるとい...