東京で暮らし始めるきっかけは、大学進学だった。あんまり頭のいい大学じゃなかったけど、第一志望だった。
私は実家を出たかった。両親は私のことを本当に大切にしてくれていたけれど、だからこそ家を出たかった。
でも、家を出て大学に行きたいけれど、どこに行きたいとかは特になかったのだ。やりたい勉強もなかったし、そもそも勉強ができたわけじゃないから、大学を選ぶという意識よりは入れる大学を探すという意識が強かった。
そうして大学を探していると、やっぱり東京には大学が上から下まで数多くあって、私はその中で一番入りやすそうな大学を第一志望にした。だから、東京にこだわりがあったわけでもなかった、最初は。
両親も特に反対はなく、私を応援してくれた。そんな両親の気持ちがありがたかったから、私はますます家を出たくなった。
そして第一志望に無事合格し、東京に行くことが決まった。両親は、心配だからと言ってちょっと無理をして防犯マンションを探してくれた。ただただ家から出たいだけの私はなんだか申し訳なくなったけど、そこは両親に甘えることにした。
細かく語ると本当に長くなるからやめておくけど、価値観がグルグルした。3分待てば次の電車が来るのとか、新宿の高層ビル群とか、表参道のブランド店街とか、それまで私の世界になかったものが次々に目に飛び込んできた。この世界には私の知らないものがある、って、初めて本当にわかった。
だから、地元にはなさそうなバイトを選んで、いろいろやってみた。何かの店員さんみたいなバイトは絶対にやらないって決めて、その代わりドラマのエキストラ役とか、イベントのコンパニオンとか、綺麗なオフィスでインターンみたいなバイトをたくさんやった。Facebookの友達はどんどん増えていって、しかも結構すごい人もいたりとかして、本当に自分の知らない世界が見えたし、自分がキラキラしてるって本当に思えた。まるで生まれ変わったみたいに。
就活の時だけ、ちょっと両親とぶつかった。私はこのまま東京で就職するつもりでいたけど、両親は地元に帰ってきて欲しいみたいだった。
その時に両親から、なんでそんなに東京にこだわるのか聞かれた。
それでパッと思い浮かんだのは、東京はキラキラしている、ってことだった。でもそんな理由で納得はしてくれないと思ったから、東京で夢が見つかったって言った。嘘ではないと思う。でも、そう言ったら納得してくれた。
就活は私の大学くらいのクラスだと苦戦するよ、って高学歴な知り合いの人達が教えてくれたし、確かにエントリーシートとか通らなくて大変だったけど、最終的にはつながりのあった人からの紹介で就職が決まった。これは本当に運が良かったと思ってる。
本当に、私は東京でたくさんのものを手に入れた。もしも家を出たいと思わずに地元の大学に行っていたら、今ほど私の人生はキラキラしてなかったと思う。
東京には、私の人生になかったものがたくさんあった。だから、東京はいい街だと思う。
ねえ、お父さんお母さん。
この街で私は本当に変わったと思う。
大嫌いだと思っていた自分を好きになれた。