イタズラという行為は、ある意味でコミニケーションの一環でもある。
相手が許してくれるだろうという信頼と、そして許すという反応で信頼を示すわけだ。
もちろん、そんなことに確証なんてないのだから「イタズラはいけない」と大人たちは言うだろうし、それは何一つ間違っていない。
今年もハロウィンの時期がきた。
馴染んでいないし、今後も馴染まないイベントだと感じる人もいるけれども、俺の町では楽しみにしている人も多いようだ。
とはいっても、やることは茶番で、あらかじめ決められた住所で、あらかじめ用意していたお菓子を貰うだけ。
トリック・オア・トリートではなく、トリート・オア・トリートってことだ。
弟のマスダや、その仲間たちはそういうのが気に食わなかった。
トリックもトリートも存分に堪能してこそのハロウィンだと考えているようだ。
俺個人としてはハロウィンそのものには関心がないが、弟の明瞭な考え方は評価したかった。
だが、そういう崇高さの割を食うのは大人たちだ。
特にマスダ家の隣人であるタケモトさんは、いつも酷い目にあっている。
そんな傍若無人っぷりに大人たちは戦々恐々とし、様々な注意喚起を呼びかけたが、弟たちは子供の発想力と行動力で、どんどんお菓子をくれない人間にイタズラを仕掛けていった。
その実力行使役として白羽の矢が立ったのが俺だった。
それは俺にバイトをするノリで大人たちの味方となり、弟たちの敵になれということを示していた。
そして、俺がそれを断れない程度には大人でもあるということも知っていたのだろう。
俺は同じく対策員であったクラスメートたちと、来るべき時に備えて作戦を練った。
「で、対策つってもどうするんだ」
「弟たちの破天荒さに面食らって錯覚している者もいるが、身内の俺から言わせれば実のところ大して頭のいいことはやっていない」
「じゃあ、どうして大人たちは出し抜かれるの?」
「まあ、大人のプライドから子供を舐めてかかっているのもあるが、弟たち個々の能力の高さによって、多少強引でも可能に出来るからだ」
俺は弟や、その仲間たちの説明を始める。
シロクロ。本名は知らないが、モノトーンの服装ばかり着ているので周りはそう呼んでいる。大人顔負けの体格と、子供もドン引きするレベルの頭脳を持ち合わせたアンバランスな存在だ。
ミミセン。日常生活のほとんどを耳栓をつけて過ごしていることからそう呼ばれている。優れた頭脳が武器だ。
タオナケ。チームの紅一点らしい。無機物を破壊する超能力がある。
「厄介だな。こいつら全員に思うがまま暴れられたら」
「とはいっても実の所、大人が本気で止めようとすれば、止められるレベルだ」
「じゃあ、なぜそうしないの?」
「子供を大人の理屈でもって従わせるのに、その大人が大人げないことなんて出来ないわな」
まあ、ある意味で俺たちにそれをやらせる時点で、それはそれで大人気ないとは思うんだが、大人たちの理屈ではこれはセーフということなんだろう。
「それで、結局の所は当日どうすればいいんだ?」
「何か作戦があるってこと?」
「そんな大層なものでもないが、考えがある」
≪ 前 そしてハロウィン当日。 まずミミセンだが、耳のよすぎるあいつは、世の中の多すぎる雑音が嫌いで耳栓を普段つけている。 つまりミミセンがないとあいつの普段のパフォーマ...
≪ 前 こうして弟たちのハロウィン大作戦は終わったが、ハロウィン自体が終わったわけではない。 弟や仲間たちにも楽しむ権利があるのだ。 大人たちの考えうる範疇では、だが。 ...