サイコパスは4%もいるらしい。25人に1人だ。そのことを知った俺は、あー俺の親ってサイコパスだったんだなーとすんなりと思えた。
昔からちょっと変だなと思っていた。感情の機敏に疎いというか、母のことを泣かせてもしらんぷりだし、俺と仲良くしようなんて素振りも見せなかったし。でもまあ昭和生まれの父親なんてどこもこんなもんだろと思ってた。
それにしたってさすがにヤバすぎだろ、と思ったのは最近。
ウチには半ひきこもり半浪人の妹(18)がいるんだが、その妹を養子に出すと言い出したのだ。おいおいちょっと待ってくれよ、と思っている間に母が決死の演説をしたらしく、しぶしぶ家から追い出しに変わっていた。今から思えばむしろ養子に出したほうが妹にとっても幸せだったんじゃないかと思うんだが、まあそれはそれとして、とにかく、俺は親父のことが信じられなかった。
妹は仮面浪人中で塾に通っているが最近は家に引きこもっている。話を聞いてみると、「よい大学に行け」という幼少期からの親父の刷り込みのせいで仮面浪人をしているらしく、本人はそもそも大学にはあんまり行きたくないらしい。そんな健気な妹に対してほんの3ヶ月人生に迷ってるだけでウチの名字を名乗らせるなとわめき散らす親父はマジモンのキチガイなんじゃないかと思った。だが親父は昭和生まれの頑固者だ。妹への愛情がネジ曲がってそんな言葉になってしまった可能性もある、いやそのはずだ。そう信じ、親父に聞いてみた。
「なあなんで妹を家から追い出すなんて言ったんだよ」
「俺が嫌だからだ」
「なんで嫌なんだよ」
「あいつは穀潰しだろ。俺は俺の財産があんな怠け者に食いつぶされるのが嫌なんだよ」
「身内としての愛情とかはないわけ?」
「昔は好きだったよ。だった、だけどな」
「…………」
サイコパスは、自分の物が損なわれることが普通の人よりかなり嫌らしい。普通の人は、それを愛情だ、と勘違いすることが多いんじゃないだろうか。なぜかって、俺がその一員だったからだ。
親父は昔、俺が交通事故にあったときに相手に怒り散らしていたが(俺はそれに少し感動していた、今思うとかなりアホだが)、それは自分の所有物だったからだ。今は所有物ではないから、これだけ冷酷な判断が下せるんだ。
到底普通の人間にできることじゃない。人間は、なんだかんだいって、どうしようもない愛情とか引きずってもしかたない感情に振り回されてしまうものだと思う。親父にはそれがないんだ。元々欠落しているんだ。愛情とか、罪悪感とか、そういうのが。
サイコパスは頭がいいので、通常の人間の仕草をよく勉強する。出世など自分の利益になることを第一に考えるため、外面はかなりいい。他のサイコパスの例に漏れず、親父も幼少期は万引きなどを繰り返していたらしいが、今や中企業の大社長様だ。ここまで上り詰める間にも、上司に媚を売ったりなんだりしてたんだろう。サイコパスってのは、感情はたしかに無いが、コミュ力が無いってわけじゃない。愛情とか罪悪感とか利益を出すことに邪魔な感情だけが存在しないロボットみたいなもん、なんだろう。きっと。
今、図書館のアレコレで不登校がちょっと話題になっている。それに関連して「親の理解が云々」なんて文面もチラホラ見る。そんな文章糞食らえだ。俺の親父はどんな文章を見たって何にも感じないだろう。
今存在しているサイコパスは、そのほとんどが結婚しているはずだ。「一人前の男は子どもを持っている」のが常識であるうちは、当然のように子どもを持つだろう。そんで俺の家みたいな家庭をどんどん作る。母が泣いてようが妹が苦しんでようがしらんぷりだ。罪悪感も共感もないんだからそりゃ当然だよな。
サイコパスは4%いるらしい。それが多いと思うか少ないと思うかは人によるだろう。多くのサイコパスは、日常生活に紛れて、普通の人間として暮らしている。俺の親父みたいに。