前に転職活動した時、某外資系ソフトウェア企業で面接を受けた時に聞かれた質問に今なお納得していない。
その質問とは「コカコーラ社がコカコーラの缶の原料のアルミの取得に年間コストをいくらかけているか推定せよ」というものだった。
この質問は良問であるが、悪問でもある。なぜか分かるだろうか?
(下に続く)
さて。
この質問には引っ掛けが仕組まれている。その引っ掛けとは、通常の発想をするとすぐには正解を導けない点だ。つまり「年間でいくらコストをかけているか」から素直に考える始めると、まあ普通は世界人口とか先進国人口などをベースに、
1. 平均的なユーザが年間に何本コーラを消費するかを仮定し、それをもとに
2. 年間の製造本数を推定し、それによって
3. 缶1本に使われているアルミの量を仮定して缶の製造に必要な量は1年間で何トンかを算出し、そして
4. アルミの買取代金が1トンあたりいくらかを仮定することで答えを出そうとするだろう。
しかし、よほど飲料水や金属の業界に勤めたことがあるような人間以外は、アルミが1トンいくらかという感覚はもっていない。そこで、4の段階になってからこの推論ではダメだということに気づき、視点を変えて1缶あたりのコスト構造から考えることになる。
コーラ1本の末端価格はいくらか、コカコーラ社が卸売業者なり第一次の販売相手に売る時の価格はいくらか、というあたりから、コカコーラ社が1本あたり得るであろう粗利を適当に設定し、原価はこれくらいだろうという推定をする。そして原価の構造として、中身の飲料水の原材料費や製造コスト、缶の原材料費や製造コスト、印刷やパッケージングや運搬などのコストを適当に仮定し、1缶あたりのアルミのコストを算出する。そこで上記2で算出した年間製造本数を掛けて答えが出せる。結局、3で算出したアルミが何トン必要かの数字は全く使う必要がないことになる。
まあ、面接者がこの問題の特性を分かっていて、こうやって自分で間違いに気づき、さかのぼって違う角度から考え直す過程を含めて全体を見ているのであればちょっと練られた良い問題とも思えるが、それはあくまでも面接で使うための問題としてみた場合である。まともに「これは実践的な設問だ」と考えて正面から取り組もうとするとすぐに答えが出せずに焦ることになる。会社経営的な視点からは、年間でアルミを何トン買い取っているのかという数字は分かっておきたいはずで、その上で単価の変動なんかを気にかけるはずなのだが、その発想をするとこの問題は解けないのである。つまり、これは実践的な設問だと思わせて、実は「シカゴにピアノの調律師は何人いるか」というフェルミ推定の問題と大して変わらないという引っ掛けなのである。
その面接試験自体は通ったから良いものの、その前後での会社とのコミュニケーションからするとあまり自分に対する評価は良くなかったようだ。最初のアプローチを間違えたのが印象を悪くしたのか、どこか全体的に面接者の思惑と違うものがあったのか(数字の仮定の詰めが甘いとか、逆に細かすぎるとか、現実の相場とかけ離れているとか)は分からないが、どうもあまり納得のいく面接ではなかった。