2019-03-29

[] #71-7「市長市長であるために」

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そうして数日が経った。

「技は覚えてきたか?」

エンドウタマゴ、シラスもどきは出来るようになりました。あと、月歩と無重力も一応」

「まあ、よかろう」

ウサク流選挙術を会得した市長は、実践がてら子供の多い集会場でその成果を試すことになった。

子供有権者じゃないが、支持を得ることは無駄じゃない。

子供の周りにいる大人たちには投票権があるし、将来的な話をすれば等しく有権者ともいえる。

まりこの演説目的は、チェーン店お子様ランチと同じ理屈なのだろう。

立派な選挙フィールドの一つだ。

「本当にこんな見せ掛けの方法で良い印象を与えられるでしょうか……」

問題ない。投票する人間の半分は政治ことなんてロクに分かってないからな」

特にガキは政治なんて分からないし、興味もない。

直情的で道理も分からない生物だ。

しかし、だからこそ評価は正直になりやすい。

ウサク直伝の技を試すには持ってこいってわけだ。

「ほら市長、早く行ってこいよ。子供子供から大人しく待てないぞ」

俺は市長背中物理的に押して、半ば無理やりステージに立たせた。

「むむ……よしっ、それ!」

意を決した市長は、押された勢いのまま高く飛び上がる。

そして空中で宙返りをして捻りも加えつつ、マイクのある場所で着地を決めた。

「おおっ、すげえー!」

本場の体操選手とは比ぶべくもない完成度ではあったが、ガキ共の視線を集めるには十分な出来だ。

会場からは感嘆に近いどよめきが漂った。

『お集まりの皆さん、こんにちは。この度は耳よりな情報をお届けに参りました』

注目してもらったところで、次は耳を傾けてもらう。

市長はまるでセールストークのような語り口調で演説を始めた。

勉強嫌いな子も、給食は楽しみの一つでしょう。でも、その給食で嫌いなものや、美味しくないものが出てきたら嫌ですよね? 食べたくありません。そのせいで栄養が足りなくて、元気が出ないまま午後の授業を過ごしてしまう。皆さんにとっても、それを作った人にとっても嬉しいことではありません』

「確かにー!」

喋りは一定テンポで、低く落ち着いた声でストレスなく耳に届きやすい。

そして子供共感してもらえるようなテーマで話を進めつつ、単純な表現を使って自身制作体制説明していく。

『そこで好き嫌いをせず食べようと言うだけなら簡単です。或いは栄養のある食べ物なんだよ~なんて説明をしたり。でも、そんなことで食べられるようになるわけもありません』

「いえてるー!」

演説最中オーバーな身振り手振りを忘れない。

ハツラツとしたら表情も崩さず、周りに朗らかな笑顔を向ける。

さしずめアイドルライブMCだ。

『皆が好きなものを食べても、栄養が足りていればいいんです!』

「そーだ、そーだ!」

しかし、効果はてき面。

市長演説陳腐だが分かりやすくはあり、徐々に子供たちの心を掴んでいく。

『私が市長ならば、皆さんの給食カレーハンバーグが週一でやってくるでしょう』

そして、ここで必殺の一撃、公約を炸裂させた。

「うおおー、いいぞー!」

市長! 市長!』

たちまち会場から歓声が湧きあがり、市長コールが巻き起こる。

俺は幕の陰から、その状況をヒき気味に眺めていた。

かなり懐疑的だったが、ここまでウサクの思惑にハマるものなのか。

「ウサク、お前将来は政治家にでもなるつもりか?」

「つまらん茶化しはよせ。宗教学者に『新興宗教でも始めるつもりか?』なんて質問はしないだろう」

なんだ、その例え。


…………

お疲れ様。手ごたえは感じられたようだな」

「ええ……少々、複雑な心境ですが」

ウサクは舞台から帰ってきた市長に労いの言葉をかけた。

「お前もお疲れ」

「うげえーっ、自分で言ってて吐きそうだったよ……」

そして俺は弟に労いの言葉をかける。

何を隠そう、先ほど客席からたびたび相槌を打っていたのは弟だ。

意見を先鋭させるため、盛り上げ役も用意していたんだ。

まあ、有り体に言えばサクラである

子供ウケを狙うのはアレだと思うが、実際その効果は明らかだった。

「よし、この調子明日は票集めの主戦場、老人の溜まり場に行くぞ」

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