「……分かりました。話を聞かせてください」
「では移動しながら説明しよう」
襟を正せ 背筋を伸ばせ
やれること やっていこう
まずは
服を少し変えるのだ 見る人の目も変わるだろ
色はワンポイント 明るめに
トレードマークをつけろ
己が着るのは制服じゃない
笠に着ろ 金があれば
声の高さが違うだけで 言葉が耳に残るだろ
抑揚を少し変えるだけ イメージ変わる
喋りは短く 簡潔に言え
要点だけ覚えてもらう
低く (低く)
高く (高く)
脳に擦り付けてやれ
振る舞いを細かく固めれば イメージも形作るさ
やれることからやり続ければ 票も集まるさ
「選挙において、重要なのは印象だ。握手はしっかりと、目を見て話せ。真摯な気持ちを相手の触覚と視覚に焼き付けるように」
とにかく少しでも良い印象を与えるために、ウサクの指導は一挙手一投足に及んだ。
傍から説明を聞いていてなるほどと思えるものもあれば、エビデンスがあるか怪しい心理的な方法論もあった。
「何か学生時代にやっていたこととか、今でも趣味程度にやっていることはあるか?」
「昔、体操をかじっていたので、その名残で運動するくらいですかね」
「よし、演説のパフォーマンスのためにいくつか技を練習しておけ」
「貴様、まさか坦々と喋っているだけで人々が自分を気にかけてくれると思っていないか? 皆に良い印象をもってもらうなら、それくらいのことはやれ」
「わ、分かりましたよ……はあ、まさか市長でいるためにこんなことするハメになるとは」
しかし市長は少しでも票に繋がるのならばと、訝しげに思いながらも技術を吸収していった。
その日の夕方頃、俺とウサクは近所の居酒屋に赴いた。 「ここは市長がお忍びで利用する、行きつけの店だ」 「そういうのってマスメディア向けのリップサービスだろ?」 「あの市...
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