東北大学の秘書の雇い止めの危機を伝える新聞記事(http://www.asahi.com/articles/ASKC16D0XKC1UNHB00P.html)が話題だ。大学関係者としての想像だが、雇い止めは誰も望んでいないはずだ。秘書本人はもちろん、研究室の教授や関連する学部の事務職員なども、できることなら続けてもらいたいと思っていることと思う。それでも雇い止めの危機は来る。
ブックマークコメントでは「雇い止めとかふざけるな、無期雇用にしろよ」という論調のコメントも多い。お怒りは尤もである。尤もなのだが、話はそう単純ではなく、仕方がない面もあると思う。
原因は、教授や大学組織の心意気の問題ではなく、大学の予算のシステムにある。建前の上では、(労働契約法の)趣旨に反した雇い止めをこれから行うというよりも、(大学の予算制度の)趣旨に反した継続雇用をこれまで行ってきたと言える。およそ大学で働く人の実感とはかけ離れているが、かけ離れているが故に問題である。
どういうことかを説明するには、大学の予算の話をしなければならない。面倒だが付き合っていただきたい。
研究室で秘書を雇うとなると、まず間違いなく、人件費の原資は「競争的資金」のはずだ。競争的資金とは、各研究者が研究計画(「こういう価値のある研究を、こういう計画で実施したいと思うので、これだけの予算を下さい」という申請書)を提出し、その中で優れたと判断された計画に予算が割り当てられるという仕組みだ。競争に勝って予算が得られれば、研究計画に関する事務をお願いするために、秘書を雇う(ことがある)。雇い止めとの関係で言えば、ポイントは3つ。
だから2~5年は雇う約束ができても、ずっと雇う約束はできない。そもそも、5年を超える秘書業務は建前上は存在しないのだ。記事の秘書の方は勤続12年だそうだが、建前としては、4つか5つの研究計画の実施の事務処理を行ってきたはずだ。3年+3年+3年+1年+2年とか、そんなところだと思う。(労働条件通知書には、どの研究計画の業務を行うかが明記してあったと思う。確か。だから、研究計画の切り替わりの前後での仕事は、書類上は、「従事すべき業務の内容」が違う別の仕事ということになる。たぶん。)
無期雇用にするのが難しいのは、こうした建前の現行システムのせいだ。建前に忠実に従うと、5年以内での雇い止めがおかしいのではなく、3年+3年のような研究計画を跨いだ連続した雇用の方が歪んでいることになる。そもそも、「雇い止め」ではない。本来の職務は「3年間の研究計画に付随する事務」という時期に限りのある業務で、約束した仕事が終わったので雇用契約が満了するだけなのだ。次年度から新しい研究計画が動き出すかもしれないが、それは別の話。皮肉なことに、原理原則に従うと、雇用の期間は5年よりも短くなり、雇用の不安定性は増す。建前上は、無期雇用が相当な仕事はない。誰も得をしない。
じゃあ、どうしたらいいのだろうか。
「競争的資金に落ちたので、来年度は雇えません」というのが解雇の正当な理由になるのであれば、さらにそのことが各大学の執行部の共通認識になれば、無期雇用への切り替えを恐れて5年で雇い止めをする必要はなくなるのではないだろうか。ちなみに、無期雇用は必ずしも終身雇用は意味しない。業務が明確に定められていて、その業務がなくなってしまうのであれば、無期雇用者の解雇も認められるはず。したがって、「研究計画の遂行に係る事務」のみを業務にしていた場合、「競争的資金に落ちた」は正当な理由になってもいいと、個人的には思う。労働法務は素人だけど。東北大学の教授くらいになると、競争的資金も安定して取れるので、本当に解雇が発生するリスクは大きくない。一方で、現実の秘書業務は研究計画との紐づけが若干緩く、研究計画との関連の薄い研究室の運営業務もお願いしていたりするので、そういった所は改める必要があるのかもしれない。
※ 研究室の秘書の雇い止めと類似の問題として、学科の有期契約の事務職員の雇い止めがある。秘書業務は建前上は研究計画に紐づく期間に限りのある業務だから、研究計画の終了で雇用契約が終わることも止む無いが、学科の事務は恒久的に発生する仕事で無期雇用が相当だと、個人的には思う。また若手研究者の雇用の不安定性の問題もある。
※ 今回報道された問題は、全国の大学で目にできる、ありふれた問題だ。また新しい問題でもない。2012年の段階から議論されてきている(例えば http://d.hatena.ne.jp/scicom/20120422/p1)。
政治家が落選した時の秘書の解雇は正当であるか問題
公設秘書だったら当然解雇(議員じゃなくなったのなら金出るわけない)じゃね?
そりゃ研究室がつぶれたら解雇しても仕方ないんじゃないの
予算がないというのは端的に嘘だよな 無期雇用になるのが嫌で雇い止めをするんであって、有期雇用なら雇い続けるんだから
話が根本的に歪んでるな 2~5年程度のプロジェクト制のはずがそれ以上の期間業務をやらせている時点で有期の要件を失っているわけ これじゃブラック研究室としかいえないわな
じゃあ2,3年で首にしてどんどん他の人に入れ替えればいい、って事か その方がブラックじゃね?
本当に特定の研究計画に必要な業務のみをさせるならそれでいいんじゃね だがそれ以外の業務を少しでもやらせるなら労基法違反なのは大学なんだよ
まあそりゃそうだな でもそうなると下っ端の研究者やら院生やらがその業務をする事となるが
だからそれがブラック研究室そのものだっての >下っ端の研究者やら院生やらがその業務をする事
本来は秘書業務を行う他の人間を雇うべきなんだろうが、その予算がない。 予算を出すなら大学の運営費から出すしかないが、どこも予算を削られている中でどこからその金が出るのか...
それまさに違法労働企業の論理 必要な業務をする人員を雇うのであれば捻出しろ 本当に徹底的に会計見直したのか?
一教授の立場でそんな事できるわけないじゃん
一教授? 教授会は大学の意思決定機関だぞ
秘書が「研究計画の遂行に係る事務」だけをやってるわけないんだよなぁ
skasuga このロジックは「スター教授が一人だけいるけど、その人がコケたら誰も大型研究費を取れない」小規模大学ならそうなんだけど、東北大学でそれは単なる建前だよね。 秘書っ...
>秘書って研究室についてるんじゃなくて教授についてる ところが実際は研究室運営の大部分をやってることが多く、秘書に引き継ぎしてもらわないとまともに事務もできないのが実情
anond:20171118054234 15年に分子生物学会がやったガチ議論ってやつで答えが出ている ポスト数ですが、法人化時に大学が財務省から得た「承継ポスト」の数に縛られている、ということか...
mouseion 東北大学のあるノーベル物理学賞候補の一人として注目された某准教授は東北大のせいで自殺を余儀なくされた、というのはあまりにも有名な話。労働環境として機能してないば...
前にいた大学でもこれが問題になっていた。 最高裁でいわゆる雇止め法理の判決がでて、5年以上雇った時に全員を無期雇用に変えるリスクが出てしまうので、 うちの大学では判決が出...
昔は事実上の無期だったんだよ。 書類上は1年契約とかでも毎年更新で、研究室の誰よりも古株なんておばちゃんがごろごろいた。講座の主状態の。 それで問題なかったんだが、「非正...