父は気に入らないことがあるとすぐに怒鳴り散らし、癇癪を起こし、周囲に無作為に当たり散らした。
父は自分の好きなものは世界中の皆が好きであると思っているし、自分の嫌いなものは世界中の皆が嫌いであると思っている。
父は話題の中心に自分がいないと酷く不機嫌になり、すぐに自分の話をしたがる。
そのくせ、一度興味をなくすとすぐに余所見を始めるため、こちらの話には一切耳を傾けない。
思ったことをすぐ口にし、口癖は「本当のことはいくら言っても良い」
自分の子供に対して、見た目や体型をさんざっぱら揶揄するくせに、自分の見目を揶揄われると激怒する。見事なダブルスタンダートである。
子供の意見はとりあえず否定から入り、丁寧に丁寧に論破する。父に肯定された覚えなど一度もない。
最近だと、すぐに「はい論破!」と子供が言い出して親が困る、というニュースを見た覚えがあるが、それを私は父にやられた。
それでも子供が頑張って絵でも描こうものならば、子供ではなくてツールを褒めた。良い画材を使ったんだなとか、良い紙を使ったんだなとか。
そういう調子なので私本人が父に褒められたことなど一度たりともない。微塵もない。
母は「お父さんはこういう人なんだからあんたが合わせなさい」と常々私に言っていた。あなたは好きで結婚したのかもしれないが、私は好きでこの人の子供に生まれたわけではない。
「俺は人生の全てをお前の父親として生きているわけではないが、お前は人生の全てを俺の子供として生きているのだからお前が合わせるのは当然」というのが父の言い分である。その理屈はおかしいと言ったら怒鳴られた。
成長して夢を語るようになった私に対し、父は丁寧に丁寧にそれをひとつずつ潰した。
絵を描いても、物語を書いても、何をしても、父は丁寧に丁寧に私の夢を潰していく。
「どうせお前は何してもダメ」「箸にも棒にもかからない」「狭いコミュニティの中で完結するだけの駄作」「俺に言われたくらいでやめるのなら情熱がない証拠」などなど。
自分で何も決められない人間が出来上がるのに、そう時間はかからなかったように思う。
父の借金を肩代わりした時でさえ「お前が安月給なせいで全然借金が減らない」と言われた。
森羅万象、だいたい私のせいだと言われて育った。
父でもケチのつけようのない超大手企業だった。父は何も言わなかった。
醜いと毎日罵倒されただけのことはあって、私の見た目はとても醜い。自分で鏡を見るのが憂鬱なほどに醜い。
実家を出てしばらく経つが、それでも鏡は苦手で仕方がない。
耳の奥でずっと父の声がする「お前はどうせダメなんだ」と私を笑っている。
そんなはずはないのに、呪いのようにそれは私を蝕み、悔しさで涙が止まらない。
病院に通いながら、這いつくばって生きている。どうして私がこんな思いをしなければならないのか。考えれば考えるほど父への憎悪と怒りが募る。
「父親を恨むなんてお前はクソだな」
ならばいっそクソでもいい。
クソ親父に呪われたまま、私は今日もクソな日々を生きている。