2021-11-16

不倫した話

「1日だけあの頃みたいに遊びたい」そういう連絡だった。

僕と彼女が二人で遊んでいたのはもう10年以上前の話で、正直に言えばあの頃のことはよく覚えていない。月に1回か2回か、馬鹿な話をしながら酒を飲んでベロベロに酔っ払って、たまに終電を逃して、セックスしたりしなかったり、そんなことをしていたと思う。付き合っていたわけじゃない。遊びに行く時以外で頻繁に連絡を取り合うこともなかったし、お互いに恋人が居るタイミングもあったと思うから、近づいたり離れたりしながら(それでいながらぴったりくっつくこともなく)文字通り遊んでいただけだった。

あの頃と違って彼女も僕も結婚しているし、最後に会ったのは3年ぐらい前の共通友達との忘年会だったから、彼女の連絡はとても唐突ものだった。でも僕はすぐにその誘いに乗って、その「1日」をいつ過ごすか話し合った。

当日、僕たちはあの頃過ごした街の小さな映画館休日の昼下がりに待ち合わせた。奇妙な話だが、あの頃に戻るために会ったのに、僕たちは休日に待ち合わせたこともなければ一緒に映画を見たことすらなかった。でもこれは僕たちにとって必要な準備運動だった。10年という歳月を経て急にあの頃にいきなり戻れるほど僕と彼女は親しくなかったからだ。僕たちは映画館ポップコーンつまみに気の抜けたビールをちまちまと飲みながら、いつのものかもわからないリバイバル映画を見た。手を握ることもなかったし、目を合わせることもなかった。実際のところ僕も彼女映画を見てはいなかったと思う。ただスクリーンを眺めながら、あの頃何をしていただろうなとぼんやりと思い出していただけだ。

映画を見た後、どこにでもあるチェーンの居酒屋に入って酒を飲んだ。昔みたいに大してつまみも頼まずに酒を飲み続けたが、話題は近況報告だったり家庭のことだったりとあの頃とはすっかり変わっていた。店を出るころには日も暮れてきていたし、お互いだいぶ酔ってはいたがあの頃みたいにベロベロというわけではなかった。僕は彼女の腰を抱き寄せてもいなかったし、彼女も僕の腕を抱いてもいなかったからだ。ここで帰るのもいいかもしれない、僕はその時本当にそう思っていた。でも僕の口から出た言葉は「飲み足りないな」だったし、彼女の返事は「まだ何時だと思ってんだ」だった。

繁華街の奥へ奥へとぶらつきながら、結局またさっきの店と同じようなメニューを出す店に入って飲み直した。もう酔っていたから対して酒が進むわけではないし、つまみほとんど頼まないか迷惑な客だったと思う。それでも僕たちはいつの間にかあの頃みたいに中身のない話をして馬鹿みたいに笑って、ベロベロに酔っ払っていた。もうこれ以上は飲めないというところ(それは本当にすぐ近くにあった)まで飲んで店を出た時、僕たちはこの後どうするという話もせずホテルへ向かってセックスをした。特に素晴らしい体験だったという感じはしない。あの頃と同じただのセックスだった。愛もないし過剰な興奮もない。行き過ぎた友達同士のコミュニケーションのようなセックスだった。

事が終わった後、僕たちは辞めたはずの煙草を吸いながらぼんやりと中身のない話をしていたが、彼女は急に黙った後、東京から離れることになったと話し始めた。

理由はよく覚えていない。酔っていたということも勿論あるが、数年間平気で連絡を取っていなかった相手ちょっと遠くに行くという話を聞いただけで僕はひどく動揺していた。なんとなく僕と彼女はずっとこの東京に居るんだって思っていた。覚えていたのはどこかの小さな地方都市旦那実家の近くに家を建ててそこで暮らすということだけだ。でも彼女がその後に言ったことはよく覚えている。

「つまり私の人生はここで一区切りってわけ。あそこに行ったら私は奥さんでお母さんで、これまで生きてきた私という人格はどこかに消えちゃう。もう東京でこうして酒を飲んでベロベロに酔っ払うこともないし、もしかしたら東京に来ることも二度とないかもしれない。君と会うのも最後になるかもね。でもそれも悪くないのかなって思ってる。私の選んだことだから

僕がそれになんと返したかは覚えていないけれど、彼女を抱き寄せてもう一度セックスをした。あの頃は2回戦なんてしないで寝ていたけれど、今の僕たちには帰るところがあって、寝るわけには行かなかったから。

ホテルを出て終電で帰って以来、僕たちは一言も連絡を取っていない。僕とは違う路線に乗る彼女を改札前で見送って、あの頃と同じように「じゃあね」と言ったきりだ。彼女が今どこいにるのかも知らない。でもきっと彼女彼女人生を生きているんだと思う。僕はあれから、寒くなってくると彼女のことを思い出すようになった。

  • やらなかったらエモい話で終わるやつだね。

    • まあ一晩の過ちくらいなら許してやるのが伴侶ってもんよ

      • きも・・・やったがわ、てめえがいうなっての  倫理観ぶっこわれてんの自覚しろ

  • (それは本当にすぐ近くにあった)の春樹臭。 わざとやってる感が鼻につく。

  • 読んで損した

  • AIで要約した結果 僕と彼女が10年以上前、東京に遊びたいと連絡していた。 彼女に「1日だけあの頃みたいに遊びたい」と連絡。 彼女に「私は奥さんでお母さん」と話し、彼女を抱き寄せ...

  • 東京ラブストーリーって小田和正の曲が良かったから許されてただけで今リメイクされても倫理観ゼロの大人の乳繰り合い見せつけられてキツいんだよね まぁ俺東京ラブストーリー見た...

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