最近の話ではなく幸いにも真冬で水路に水が流れていなかった時のことなんだが、用水路に子供が落ちていた。たぶん小学三年生くらいかな。私が旗降り当番で近くの交差点に立っていた時に、数人の子供達が助けを求めに来たのだった。
子供達に引っ張られて現場に行ってみると、広くて深い農業用水路に男の子が一人落っこちていた。水はないし、深さも男の子の背の高さよりはないので、何とか自分で上がれるようにアドバイスすることにした。何しろ少年、ドスコイ系で私の腕力では引き上げられなかったし。
っていうか、普通片手でも貸してもらえばこんな高さくらい上がれんだろと思ったらダメだったのである。なんかね、手を貸した瞬間もう全力で手にぶら下がって何もしねえの。いやいや無理だって、自分でもさあ、用水路のコンクリを足掛かりに登ってこようとしないと、ぶら下がってるだけじゃ永劫上がってこれねえから。でもひたすらだらーんとぶら下がるし、このままじゃ私まで引摺り込まれるようにして落ちそうだと思ったので断念した。
それで、何とか自力で上がってもらうには、まず身軽になってもらわなければならない。まずはランドセルを背中から下ろして岸に上げてくれと言ったら、何故かデモデモだってをしてランドセルをおろさない。しばらく愚図愚図してやっと、ランドセルを草の上に放り投げてくれた。
で、次に、足が川底に溜まったヘドロのせいで上手く動かせないと言うので、もういっそ靴脱いじゃえ。どうせ中まで泥んこだし、靴ががばがばして歩けなくなってんだからって言ったらこれまたデモデモだってを始めて脱がず、歩けないもうダメだとか騒ぐ。裸足になれば確かに川底に沈む何かで怪我をするリスクが生じるのだが、護岸コンクリートを登るには裸足の方がまだやり易いぞって言ったらまたデモデモだってで、登れない登れない言いながら、ヘドロの中を行ったり来たりしている。
ヘドロの深さは踝が沈むくらい。当人、ブーブー言いながら普通に歩いているし、そこまで障害になってはいなさそうだが、どうしても無理ダメ上がれないというので、仕方なく何か足掛かりになるものを皆で探す。と、仲間の一人が田んぼと用水路を繋ぐ穴を塞ぐのに使われていた薄い板をひっぺがして持って来た。農家の人には悪いんだけど、これは使える。これを壁際のヘドロに刺して踏み台にすれば上がれるはずだ。ほんの十数センチあればよく、ぺらくても一瞬でも体重を支えられればいい。そう伝えたがやはりデモデモだってと言うばかり、うろうろするばかりで時間だけが過ぎて行ったが、最終的には子供達の中の一人が私の言ったことを理解して川の中に落ちてる子に伝えたら、素直に聞いていともあっさり川底から脱出してきた。これってむしろ私がいたから川に落ちた子が愚図愚図反抗して時間がかかったんじゃね? もしかすると知らんぷりして去れば子供達だけで解決してさっさと学校に行ったのでは。
その頃にはすっかり授業が始まっている時間で、私は小学校に電話で連絡した。すると川に落ちた子の親が学校から連絡を受けて駆けつけ、子供を回収していったのだけれど、他の子供達はサクッと置いていかれてしまった。しょうがないので、私が子供達を車で学校に送り届けた。車の中で子供達から聞いたが、彼らの仲間内の誰かが用水路に落ちたのはこれで三回目? くらいだそうで、学校の先生からはあの用水路には近づくなと言われているんだが、つい脇を通ると見ちゃうし(歩道と用水路はつい見ちゃうほど近距離ではない。)見てるとなんか落ちちゃうらしい。