2019-07-30

N国一党独裁SF

どうしてこんなことになったのだろう。

NHKをぶっ壊す!」きっかけはその一言だった。

小学生でも分かる単純明快政策と、確かに国民を苦しめ続けるNHK視聴料取り立てへの不満から

政党ながらもN国——NHKから国民を守る党——は1議席を得ることとなった。

そこまでは(有権者にとっては意外だったかもしれないが)何の変哲もない結果でしかなかった。

しか政界に落ちたこの小さな雫の一滴は、静かに政局の水面を揺らし、やがて大きな波紋をなす

ある無所属議員が入党を表明。

ある議員参院会派を結成。

ある小政党の合流。

ある野党議員が入党を表明。

ある与党議員が入党を表明。

から次へとN国に関するニュースが舞い込み、ある人は面白がり、ある人は失望を表明した。

NHKをぶっ壊す。それだけを主要な政策に掲げ、他の政策自由

政党にしては極めて束縛の少ない集団に、その束縛に疲弊した議員大勢集まった。

N国の代表は分け隔てなく彼らを迎え入れた。

そして気がつくと、参議院過半数をN国が握っていた。




それから幾年が過ぎた。

今やN国が第一党となり、衆議院参議院共に2/3の議席をゆうに越える勢力となった。

かつての与党である自民党は見る影もない。

今でも政策はただひとつであり、他の政策自由見方によっては一党独裁だ。

しかしそれは、政党の頂点に立つ者たちが他の議員意見事実上封殺して、

数の暴力を以って行っていたかつての政治よりも、はるかにマシな政治をしていた。

政党政治というシステムを、党として政策ほとんど持たない党が破壊したのだ。

人々も政治に興味を持つようになり、地域議員意見を送る市民も増え、

政党ではなく政策議員を選び、投票率も増え、政治を堂々と話せる風潮が広がりだし、世の中も良くなった。

しかし一つ問題があった。

多くの政策を実行していたN国だったが、一つだけ実現できないものがあった。

NHKをぶっ壊す。そう、政党として掲げたはずの政策だ。

この政策を実現してしまえば、この政党を続ける大義名分がなくなってしまう。

誰も口には出さなかった。誰もがこの政治体制を続けて欲しかった。

NHKから国民を守る党は、政党政治をぶっ壊した。

でもNHKだけはぶっ壊せない。

どうしてこんなことになったのだろう。

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