2019-03-03

[] #70-3「パンジャム事変」

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この学校食堂普通である

何を持って普通と言うべきかなんて知らないが、ともかく普通なんだ。

不衛生というわけではないが、綺麗と評するのには無理がある内観。

カウンターに貼り出されるメニューは、ちょっと離れた場所から見るだけで全部読める。

首を動かす必要すらなく、全てを視界に捉えることが可能だ。

そして料理の見た目は精彩さを欠き、味に至っては繊細さの欠片もない。

栄養バランス

そんなの“自己責任”さ。

食堂を利用する生徒の半分はそう答えるだろう。


そんな食堂の人気メニューも、これまた普通だ。

1位は唐揚げ

2位はハムカツ

3位は細切りフライドポテト

4位は素ラーメン

5位がカレー

揚げ物がトップスリーである

そして察しの通り、この三銃士サイドメニュー

メインの料理とは相互関係にある。

例えば4位の素ラーメンに放り込めば、若者飽食に応える「揚げ物が入ったラーメン」が完成する。

から滲み出た油はスープに溶け込み、そのスープを衣が吸うという循環システム

コショウをかけて麺と一緒にすすれば、別々に食べるより何倍も美味いという幻覚をもたらす。

或いは、5位のカレーに乗せてもいい。

具があるのかないのか良く分からないカレーは、「明らかに具のあるカレー」に生まれ変わる。

飯とルゥの配分に苦戦しながら頬張れば、「1+1=2」という真理に辿り付けることだろう。


だが今回、俺が求めるのはラーメンカレーではない。

パン―――より厳密にいえばコッペパンだ。

生徒の間ではあまり評価されていないが、このコッペパンは割とちゃんとしている。

なぜなら、そこそこ有名なパン工場で作られたものからだ。

甘さも塩気もないが、ほのかに感じる小麦香りは食欲をかき立て、素朴な味は期待を裏切らない。

バターが塗られていないため艶はないが、しっかりと保たれた楕円形によってパンは輝いているように見える。

トッピングは多くないものの、マーガリン生クリームチョコ粒あん、いくつかの惣菜があったりと要所は抑えていた。

更にはサイドメニューで応用が利くので、その可能性は数倍に膨れ上がる。

そんなわけでコッペパンは人気こそ上位ではないが、安定した需要のある公務員だ。

時々、無性に食べたくなってしまう人もおり、かくいう俺もその一人だった。

特に、その日は月に一度あるかないかというコッペパンモード突入しており、加えて空腹にも襲われている。

頭への栄養が不足しているせいもあり、わずかな理性で押さえつけているのが現状だ。

レポートのこともあるし、早くコッペパン補給したい。

俺は焦りを表に出さないよう意識しつつ、平均速度で歩行しながらカウンターに向かう。


とりあえず、たんぱく質が欲しいかハムカツとタマゴは外せない。

それに糖分も欲しいから、シンプル砂糖だけまぶしたやつを……小豆マーガリンもいっておくか。

いや、生クリームチョコカスタードにしよう。

それを口当たりのよい牛乳で流し込めば申し分ない。

近々訪れる未来シミュレートし、自分の口内に唾液が分泌されていく。

早く、この唾液を有効活用してやらねば。

はい、ご注文どうぞ~」

唾液が溢れないよう気をつけながら、俺は注文を口にした。

「オバチャン、コッペパンください」

はいはーい、ちょっと待ってて」

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