「裸の王様」という話がある。もちろん、誰もが知っている話だ。
悪い商人に騙くらかされて意気揚々と裸でいる王様を前にして、遠慮ないコミュニケーションができない周りの大人たちは、内心、
「いい加減、こんなアホな王様について行く気がしない」とか、
「恥ずかしいにもほどがある」とか思ったり、考えたり、呟いたりしながらも、結局誰も何も言わない。
怖くて言えないのか、自分が言うべきかどうかわからないので言わないのか、
言ったとしても、王様はロバの耳、聞く耳なんて持っていないと言う諦めから来るのか、結局のところ誰もなにも言わない。
そんな中で、無垢な少年に「王様、裸じゃね?バカじゃん」と言われて、王様は初めて自分が裸であることに気づくとか、
そんなようなロクでもない大人たちの話だったと思うけど、
あれがもし、周りもみんな裸で、裸であることが当たり前の社会だったとして、「王様は裸である」と誰が忠言することができるのだろうか?
外から服を着た旅人が来て、「王様、裸じゃないですか!おかしいですよ」とまず思うし、口に出したとしよう。
「いや、君のその何か身につけてる方がおかしい」と。
周りが皆、裸だらけなので、世の中水準からしたら、どれほどプリミティブな状態であるかつゆ知らず、
裸であることが生まれた時から当たり前であり、今も当たり前の世界なのだ。むしろこうまで言うかもしれない。
「郷に行っては郷に従え、君も裸になったらどうだ?いや、君が裸になるべきである!」と。
「いやいや、私は裸になるなんて嫌ですよ。それに、服を着ている方が、寒さを凌げるし、怪我だってしにくいし・・・」
「暑い時はどうするんだ?」
「はっはっはー、こいつ、ばかだなあ。服を着るから暑いんじゃないのか?やっぱり裸が一番」
みたいな変なロジックで、自分たちが裸であることの不利については、あえてみようともしないし、考えようともしないかもしれない。
「しかし、裸だと、草地に入ったりした時に、草とかで傷を負ったりして、とても効率的な生き方と思えません」
「そんな時には、草を刈って行けばいいじゃないか」
「あなた方は草地に入るたびに、草を刈って歩くのですか?」
「そんなの当たり前じゃないか」
裸の王国のような特殊な環境においては、特殊なルールや常識があって成り立っていて、
その常識ごと、周りから見れば「バカバカしい」お話しなのではあるけれども、
実際の社会において、
・周りから見たらかなり遅れている
・効率的ではないけど、なんとかやっていけている
・自分たちは満足している
みたいな社会があった時に、外部の人が見た時に「いや、それ遅れていますよ」と言う指摘は、
「いや、お前の方がおかしいんだよ、我々はこれで十分回っているし、満足している。何がおかしいの?君の方がおかしいだろ」みたいな
鎖国的な反論で持って封じられてしまうことが、多々あるのではないだろうか?
自分も異動してきて、ありえないくらい何もかもが時代遅れで、非効率で、みんなそのせいで生産的に働けず、深夜遅くまでダラダラと仕事していて「大変だ、大変だ」と言うけれども、
「そりゃ大変ですよ。だって、そんな仕事の仕方じゃ、今時。裸で荒野を歩くようなもんですよ」
と指摘しても、「いや、これまで我々はこれでやってきたんだ」とか、「お前には根性が足りない」とか、「慣れろ」とか言われる。裸の王様にそれを言われる。
半年前に中途入社した女の子、ちゃんと「王様は裸だ」ってはっきり言っちゃうようなタイプの子なんだけれども(損な生き方なんだけどね・・・)、
彼女と一緒に「王様は裸だし、みんな全員裸でどうかしている。世の中、みんな服を着ています。服を着る方が効率的だし、楽ですよ」と言っても、
「今までこうしてきた」とか「何も困ってないんだけど」とか「我々は服ではないにしても、ちょっと工夫している。草を刈るとか」とか、「お前らも脱げ」とか言われて、
戦い続けているのですが、心萎えそうです。
自分たちは何か間違っているのでしょうか?