2017-06-18

偽善のススメ

実家リフォームするというので、

10年ぶりに物置化した自分の部屋の荷物を整理した。

高校の頃に買ったベージュの糞ダサいダブルジャケット

中学校体操服や履き古した上履き

図工の時間に作ったであろう謎の粘土の花瓶などなど。

まあ、よくこんなものを捨てずに取っておいたもんだと、

黒歴史の出土品の発掘を楽しんでいたら

使い古された小さなリングノートが1冊出てきた。

偽善のススメ」

子供の拙い字で書かれた、そのノートを俺はよく知っていた。

中学校1年生の時、女子から酷いイジメにあった。

もともと俺が鼻炎持ちで授業中に大きな音で鼻をかんだのがキッカケだった。

それから無視される、ものを隠される、汚物扱いされると

一通りのイジメを受け、そのうち男子も巻き込み、

最後葬式ゲーム。そして、学校に行けなくなった。

中学2年に学年が変わるタイミングで、俺の転校が決まった。

偽善のススメ」はその時に書かれたものだった。

1.自分の事ばかり話さない。

「俺は〜」「俺なら〜」という話し方はしない。

相手のことをとにかく聞こう。

2.褒める。とにかく褒める。

すごいと、とにかく言おう。すごいと言われて嫌な奴はいない。

とにかくすごい。すごいと言おう。

3.自分から積極的に話しかけない。

自分から動くのは目立つ。話に来てくれる人を待とう。

話してきてくれた人には、全力で感謝するふりをしよう。

4.優しい人を演じよう。

誰かが物を落としたら、率先して拾う。

落ち込んでる人がいたら励ます

優しい人のイメージ自分に貼り付ける。

5.女子には特に優しく。

クラスの評判を握っているのは女子

女子にはとにかく優しく接する。重いものを持っていたら、持つなど。

6.絶対に好きにならない。

女子に優しくしても、決して惚れない。

惚れたらそこから全てが崩壊する。絶対に惚れない。

万が一にも惚れられたら友達と言い続ける。

7.悪口を言わない。

悪口絶対伝わる。悪口同意もしない。

悪口を誰かが言い始めたら、できるだけその場を離れる。

8.親友は作らない。

学校に仲良すぎる友達を作るのは危ない。

全員とそれなりに仲良くなる事を目指す。

9.卑下しない

自分ができない事を愚痴らない。人を羨ましがらない。

情けない人間は好かれない。


10.勉強で1番をとる

自分クラスで1番勉強ができれば、人を褒めた時に喜んでもらえる。

できない人から褒められても人は嬉しくない。

11.誘いは断らない

誘われたら、できるかぎり参加する。

それも1番最初積極的に参加するのではなく、

人参加することが見えたら、俺も行くよ。というような自然な感じで。

12.汚いに気をつける

鼻をかむ音、くちゃくちゃ食べる音。

鼻をほじったり、トイレで大きい方をしたり。

「汚い」行動はしない。どうしてもしないといけない時は隠れてする。


13.見た目に気をつける

毎日髪を洗う。ワックスをつける。爪を切る。

制服にフケが落ちてないか毎日チェックする。

汚物にならないように気を使う。

などなど。最後の「ススメ」は59番まであった。

俺は中1の春休みにこれを何回も読んで、泣いて、

新しい項目を書いてを繰り返していた。

もう二度とイジメられたくなかった。

新しい中学校では、とにかく「偽善のススメ」を守った。

半年もしないうちに気づけば人気者になり、上位グループに入っていた。

イジメられない幸せを噛み締めていたのだが、

同時に学校にいる自分は「偽善自分」ではないかと思い始めた。

光が濃くなればなるほど、闇は深くなる。

本当の自分が見えなくなり「偽善のススメ」にのっとられていく。

そんな感覚に囚われていった。でも、いじめられたくなかった。

偽善を止める事はできなかった。

20年以上も前の事なのに、感覚が昨日の事のようだ。

すっかり忘れていたが、たぶん今も偽善のススメをやっている。

今の俺は本当の俺なのか、偽善のススメを演じる俺なのか。

59.自分は捨てる

新しい学校に行ったら、今までの自分は全部捨てる。

偽善のススメにしたがって生きること。

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