(こんな事を書いても世間では当たり前のようにクリアされているハードルだし、
端的に言っていわゆる魔法使いと呼ばれる30代男性(自分)が、
(その程度の事をタイトルのように魔法と呼んでしまうくらいだから童貞なわけだが。)
いつもは帰社時間が合わないのに、今日は向こうが早く帰ろうとしてたのでタイミングが合い、
ごく自然に(いやちょっと慌てて仕事終わらせた)一緒に会社を出た。
あまりにタイミングが一致したので、二人の仲を疑われても仕方がないかもしれない。
(疑われるようなことはまだしていないのに)
相手は一周り下の女子で、飲み会のカラオケの選曲でオタとわかり、そんな会話をしたりしたのだが、
ある時冗談で?一緒に某魔法少女映画見に行きますかーとか言われて、
最近の子はオタでもこんなにオープンにフレンドリーに異性を煽ったりするのか・・・と衝撃を受け、
(若い女子が屈託のない愛嬌を振りまく姿におっさんがコロっといっちゃうのわかるー)
とはその時の私の心の声である。
魔法使いなんだから、覗きこんだ向こう側に魅入られて心に沈殿した昏きものをそれ相応に抱えているわけで、
恋になってからは己の宿痾としてそれらが襲い掛かり、自らに責め苦を与えてきた。
だけど二人で話をしていると、大事そうに抱えているそれらをきれいさっぱり忘れる時間があった。
(その時の自分というのがいかにも薄っぺらくて表面的でかるーいアホおっさんなのだ)
この軽さは何なのか。今まで自分を蝕んできた重さとは何だったのか。
脳が痛みを覚える程に己を攻め抜き、その末に我に生まれしこのアルターエゴ。
魔法と呼ぶなら、このもう一人の軽薄な自分の誕生ではないだろうか。
その恐るべき軽さが二人の別れ際に今度食事でもどう?と聞かせて(日程も場所も決めずに)
あ、い、いいですよ、と返事を受けた。
軽薄な童貞のくせにすっげえ生意気で申し訳ないがOKを貰える自信はあった。
ただ予想と違って嬉しいというよりもはるかにすっごい恥ずかしかった。
別れた後駅ビルのトイレの個室に駆け込んで、両手でヒクヒクする顔をおおった。
表情筋の反乱を抑えきれずに赤面する自分の脳内はハチクロみたいな甘酸っぱさで満ちていた。
(現実はトイレの個室で顔をヒクつかせるただのおっさんメガネである)
ああ・・・どうしよう、世界はこんなにも美しいのにぼくはただの魔法使いのおっさんだ。
(キモい)
こんな調子で二人で食事したら恥ずかしくてまともに会話できる気がしない、
(お前は中学生か)
ちょっと喜ぶには早すぎる段階だが気持ちはわかる。おめでとう
重さを抱えていると自覚しながら「こじらせた感」をあまり感じさせない文章に好感が持てる。
こじゃれたL字型の座席がある個室の店にしろ そして好きだとか付き合うとか抜きにしても奢ってあげろよ