2013-01-23

実名報道は当たり前?

アルジェリア人質事件で、被害者実名公表が問題になっているらしい。メディア側は基本的に「公表すべき」という立場で、それに対して反論が集まっているようなんだけど、いまいちスッキリしない。メディア側の論拠は「報道の自由」で、それに反論する論拠は「被害者人権」のようだ。

メディア側の人で、「自分だったら匿名ではなく、名前を記録に残して欲しい」という意見があるけれど、それはちょっと違うと思う。死者の意見を聞くことはできないけれども、少なくとも遺族なり友人なりがその人について公表することは可能だ。一律に、原則実名報道しない、というだけだ。新聞でただ一行、名前を載せてそれで終わりにするのではなくて、その人がどういう人生を選び、歩み、そして亡くなったか、(関係者の協力を得た上で)詳細に取材して記事や本を執筆するということ、そのほうが報道の本分に近いのではないか。そのとき名前」というのはもはやあまり大きな問題ではない。

実名」云々は、メディア側が被害者アクセスするための鍵として重要なのだ。一方で匿名約束で取材して、実名報道するということもされているらしい。この場合、もはやメディア被害者関係者アクセスできているから、「実名」というもの重要度は下がっている。そこであえて実名を紙面に載せるということは「実名報道報道の自由」というプロバガンダの喧伝でしかない。

日本にいると実名報道が当たり前だけど世界的にみるとそれはそんなに当たり前のものでもない。英米では基本的に実名報道であるが、その論拠は「公権力監視」だ。匿名報道にすることによって権力不正が見抜けなくなるということを回避しようとする。一方、スウェーデンでは一般人犯罪は原則匿名のようだ。自分の知る限り、ドイツも、犯罪報道においては、被害者加害者匿名ファーストネームアルファベット)で示される。もちろん写真モザイクがかかる。

今回のアルジェリアのケースと、これらの匿名報道の違いは、今回の場合は、「政府情報を持っていて、報道機関が持っていないので報道できない」であり、後者場合は「政府ないし警察報道機関情報を共有しているが、報道機関はそれを報道しない」ということである。「政府情報を持っていて、報道機関が持っていないので報道できない」ということ、これは考えてみれば大きな問題だ。そして報道機関情報提供しないということの理由が「メディアスクラムによって被害者人権侵害される」ということで、この理由に国民拍手喝采して賛同している、そのことに私は若干の戦慄を覚える。

報道機関には情報提供されるべきだ。そのことと、実名で広く一般に「犯罪被害者」として知らしめられることとは別のことだ。後者人権侵害だという論には首肯する。けれど、被害者および関係者への取材攻勢を理由に、公権力情報隠蔽することは許されない。メディア被害者人権蹂躙しているのならば、それは別の場で争われるべきだ。被害者関係者メディアスクラムと、実名公表によって二次被害をうけているのならば、それは司法の場で議論されるべきことなのではないか。本当に「人権侵害」が問題ならば。

一方でメディア権力に「メディア人権侵害をするものである」という言説をゆるす隙を与えるべきではない。被害者関係者へのメディア・スクラムが問題ならば、なんらかの形でそれを自制する方法を考えるべきだ。また、公務員政治家などの公人を除いて、原則匿名報道にするということも考えてみていいのではないか実名報道が常に優先されるべきものなのかについては議論の余地がある。

  • そんなに「実名」が大事なら、まず記者が自分たちの記事を常に実名入りで公開すべきだろう。話はそれからだ。

  • 実名報道が当たり前かどうかは分からないが、一つだけ確かなことは、今回、朝日新聞は「実名を報道しないでくれ」という約束を遺族と交わして取材したはずなのに、それを無視して...

  • 元増田ですが、言いたかったことは「『政府が犠牲者の氏名を公表するかどうか』と、『報道機関がそれを実名で報道する』ということは分けて考えようよ」ってことです。 分かりにく...

    • まあ、分けて考えることは必要だろうな。今回の騒動は、それ以前の問題だけど。何せ秘匿を依頼された情報を、相手に無断で公開したわけだから。もはや誰も、こんなマスコミという...

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