2011-02-12

好きな人処女喪失していた。

昨夜は万人にとって楽しい集まりがあって、それは東京大学に進学した上京組を集めての、ささやか飲み会があった。

高校時代にぜんぜん話したことないやつと、まるで以前から親友だったかのように話したりする不思議な顔合わせである

僕は目当ての顔を見つける。宙に浮かんばかりの嬉しさが襲う。だって、Yちゃんがそこにいるんだもの。

Yちゃん。僕が高1の秋からずっと思いを寄せ続けている女の子

もちろん、恋心は現在進行形だし、布団に入ってさて寝ようってときに必ず彼女の顔が思い浮かぶ。

そんな彼女と僕の関係は、心のなかじゃ「Yちゃん、Yちゃん」言うくせに、実際に口に出すとなると名字にさん付けしてしまう、まあ、要するにただ3年間同じ空気を吸っていただけだ。

二人の関係性は変わらないが、僕の内面は変わった。女子への苦手意識がなくなったのだ。といっても「女友達」ができる程度の変化だけど。

から、僕はすぐさま彼女の隣の席を確保するという積極性を出せたのさ。飲み会って厄介なもので、間に一人いただけでも、会話が困難になってしまう。

相変わらず可愛いなあ、Yちゃんは。制服着てなくてもすごく可愛いよ。今、この地球上にいる人間のなかでいちばん可愛いよ。そう、とにかく可愛いんだ。

Yちゃんは文学美術が好きで、その辺の文化系女子と比べて、いつも一歩先を行っていた。ありていにいえば「センスがいい」ってやつ。

ファッションは地味だけど、その地味さがプラスに働き、身長の低さも相まって、奇跡的な可愛さを形成しているんだよ。

「私は恋愛に消極的です」みたいな雰囲気も出していて、僕が彼女を口説けるようになるまで待っててくれるんじゃないか、そんな空気を僕は感じとっていた。

今日の夜はその第一歩さ。僕はそう思っていたね。確信に近かった。

でもさ……僕が一歩階段を上ったら、センスのいい彼女二歩も三歩も上っているに、決まってるじゃないか

大学楽しい?」

 誰かが聞いた。誰が言ったかなんて覚えてないよ。僕は彼女しか見てなかったんだから

「うん!」

 満面の笑顔ってやつを、僕はその瞬間、初めて見たのかもしれない。とにかく顔の筋肉という筋肉が、嬉しさを表現しているんだ。まいったね、ほんと。

「おお、その反応は、ひょっとして彼氏とかできた?」

 女が言った。たいしたことない女さ。たまたま仲良くなった男とセックスを繰り返して、妊娠させてしまった相手と結婚するような、そんなどこにでもいる空疎な女だよ。まあ、でも、30人中29人を幸せにするって考えたら、価値のある女なのかもしれない。

「わかる?」

 彼女が答えた。

「え~、いつごろ付き合いだしたの?」

「夏ぐらいから……」

 正直、この辺の会話は何も覚えちゃいない。だって、胸が痛かったんだ。目の前にいる彼女がまるで映画スクリーンを見ているかのように、別世界人間に思えてくる。彼氏がいるだって? 半年も付き合っている? 嘘だ嘘だ嘘だ。

 もちろん、嘘じゃなかった。彼女笑顔を見ればわかる。僕の意識はどんどん遠のいていって、ただ相槌を打つだけの生きものになっていく。彼女彼氏の話をすればするほど、僕のチンコは柔らかくなっていった。

 結局、彼女とは連絡先を交換しなかったし、まともな対話すらしなかった。だってできるかい? 処女喪失したての女の子と、楽しくおしゃべりだなんて。

 家に帰り、布団に入ると、いつものように彼女の姿が頭に浮かんだ。一つだけ違ったのは、僕が勃起をしなかったってこと。がまん汁の代わりに涙が溢れだしてくる。それはフィニッシュを迎えることなく、ただただ流れ続けた。

 ねえ、僕はどうしたらいいんだろう?

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