2020-07-16

妖怪に遭った話

オカルトではないが私は妖怪の話だと思っている

特定性別や嗜好や趣味なんやかんやを叩く為に書いてはいない

夏に遭った妖怪がおり、未だ夏になると思い出して気分が沈むのでネットの海に流して供養したい、そういう話だよ

オカルト話を期待した人はごめんね



悪魔



趣味を同じくする友人らと遊んだ帰り道、此方を見て悪魔だと罵倒する爺に遭遇した。

一行で済む話なのだが、供養であるのでもう少し語りたい。語るね。


その当時私は二十歳手前くらいの年頃だった。

高校生活は闇色を煮詰めた肥溜めのような暗鬱たる日々だった。要するにカースト底辺のクソ陰キャだった。

しかインターネットを通じて共通趣味を持つ他人と出逢い、親交を得て、なんだ生きるの楽しいじゃん、広いじゃん世界インターネットありがとう、という救済を得てもいた。

インターネットの海は広く、必然的現実世界での住所は遠い事が多く、オフ会となれば一大イベントだった。

少なくとも当時の私にとってはそうだった。

大学には行かず就職をする道を選び、そこで働いて得た給料を握り締め、バスに乗り電車に乗り飛行機に乗り、初めて『友達に会いに行く為のひとり旅』を経験した。

うきうきとわくわくでいっぱいだった。


冒頭に一行で纏めた『趣味を同じくする友人らと遊んだ』というのは、つまるところこの『オフ会』の事だ。


集まった面子と一頻り語り合い、飯を食べ、ショッピングに興じ、おやつを食べ、カラオケで歌い、プリを撮り、オフ会は至極健全に盛り上がり、感極まって泣く程楽しかった。


宿を取っていたので、いや、旅行からまりたいじゃんね。日帰りはやってやれないことはないが、余韻に浸る時間が欲しかろう。欲しかったのだ、私は。

ビジホの一室でひとりゆっくりとこの日を噛み締める為の時間が欲しかった。

泊まっていきなよと言ってくれる面子も居たが、それは畏れ多すぎてできなかった。比喩でなく嬉しさで爆発して死ぬと思った。

じゃあ次に逢う時はうちに泊まってねと言ってくれたその友人に、(また逢えるの!!!!????来てもいいの!!!!!!????)と内心で爆発しながら頷いてハグをして手を振った。


その、帰路だ。


とんでもなく楽しかった、私の青春は今からなんだ、皆やさしくて面白くて素敵な人達だったな、等というような幸せに酔いながら人気のない暗い夜の道をひとり歩いていた、その時。



前方から自転車が走ってくるのが見えた。

幸せに酔いながら歩いていた、とはいえ、そうかそれでは道の端に寄って自転車の通行を妨げないように歩こう、と思う程度には素面だった。

素面だったが、酔ってもいた。


道の端に寄って歩きながらも心は此処にあらず、楽しかった思い出ばかりを反芻していた。

であるからして、自転車を漕いでいるその人物が割と結構な声量で何か言葉を発しているらしいと気が付いたのは、すれ違うまさにその手前だった。


ところでそのオフ会というのは、ゴスロリを愛好する者達の集いであった。

ゴスロリの是非だのなんだのについてはここでは省く。

そして私は自分が着るならばゴシックが好きであった。


初めての友人と初めてのオフ会

しかもその友人らは趣味が同じ。

誰も私の服装嘲笑しない。

それどころか、皆が皆思い思いに目一杯ドレスアップして集う。

加えて、何より、若かった。


要するにこの日の私は勿論どえれぇ気合を入れたコテコテゴシックファッションに身を包んでいたのだ。化粧も然り。

ゴシックとか言われてもよう解らんという場合概念的な魔女想像して頂ければ、それで解釈はふんわりと一致する。


自転車に乗ったその人物はすれ違いざまこう言った。




悪魔!!!!!!!!!!!!




言われた私はこう思った。




魔女ですけど!!!!???)




しかながら見知らぬ爺にすれ違いざま大音量罵倒されるという体験は思い返す限りこれが初めてであった。

まりに驚いたものから足を止めてその爺が去りゆくのをぽかんと見送る格好になってしまったのだが、すれ違い終えて去りゆきながらもまだ尚爺は此方を振り返り振り返り、私を罵倒し続けていた。

否、爺が罵倒していたのは私ではなかった。私を通して何か概念的なもの罵倒し続けていた。


悪魔チリン)、女(チリン)、売女チリン)、悪魔チリリン)、女(チリン)、悪魔チリン)、悪魔チリン)、悪魔チリン……)……


夜の小路罵倒ベル音を響かせながら去ってゆく爺。

通り魔に遭った気分だった。


しかし私は魔女なので、えぇまぁ売女ではないのでそこは否定しますけど悪魔だったり女だったりはしますね…???????????????


という気分でもあった。

けがからなさ過ぎてそういう妖怪なのだと思うことにして正気を保ったのかもしれない。

私という個人罵倒していた訳ではなかったからかもしれない。

元より私の好むファッション一般には受け入れられにくい傾向であることと、虐げに慣れきった高校生活も一因としてあったのかもしれない。


当時の私はこの爺が一体何であるのか全く解らなかったのだ。ただ辛うじて、爺の見た目をしているから爺だということだけは解った。

結果、この爺には妖怪悪魔爺という名がつけられた。私の中で。


この妖怪悪魔爺はそれから数年経った今でも夏のこの時期になると私の心の中に勝手に蘇り、なんとも言えず遣る瀬無い虚無感を齎してはベル音を響かせ去っていく。


嘘だ被害妄想幻覚だなんだと言われるのも辛い気がしたのでこれまで誰にも言わずにいたのだが、例のポテサラ爺が現れたことにより、おそらく同類妖怪であろうこの悪魔爺の話もネットの海に流して供養したく、こうして記事を書いている。


来年からは私の頭の中に勝手に蘇らず、もういい加減成仏してほしい。

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