「それに現代のテクノロジーだったら、未来のボクじゃなくても解決できるだろう。そういうことに精通していて、かつキミの要求を快く受けてくれる人に心当たりはないのかい?」
そういえば一人いた。
いや、“一人”と言っていいかはビミョーだけど、俺的には一人の内だ
「ガイド、今回のは“貸し”だ。覚えとくから、そっちも覚えとけ」
「なに言ってんだ。お前が返す側だぞ」
「えー!?」
「さっき『悪いけど』って言って断っただろ。その分の貸しだよ」
「ザッツライト、その通りだ! 悪いと思ってるのなら、別の形で報いるべきだ! そうするべきだ!」
家主のシロクロにこう言われては、居候のガイドも反故には出来ない。
さて、こうしてはいられない。
俺は自分の家がある方角へ走り出した。
「はあっ……はっ」
我ながら、今日はよく走る日だ。
近い場所だからと、自転車を使わなかったのは結果的に失敗だった。
何はともあれ、俺は自分の家にたどり着いた。
そこに住んでいる、ムカイさんこそが俺の心当たり。
実はかなりの高性能ロボットなんだ。
父さんは「ロボットじゃなくてアンドロイドだ」って訂正したがるけど、正直どっちでもいいと思う。
「ぜえっ……ふう」
息を切らしながら、ムカイさん宅の玄関のドアを叩く。
気持ちが逸ってそうしたわけではなく、インターホンが壊れているからだ。
「チャイムに使われていたメロディに敵意を感じた」とかで、ムカイさんが壊してしまって、そのままだ。
「ごめんくださーい……ムカイさーん、いる-?」
そう呼びかけて数秒後、家の中からドタドタとした音が聞こえた。
そして、その音がどんどん近づいてくる。
「どうした小さきマスダ」
勢いよく開けられたドアは壁とぶつかり、大砲のような音を打ち出す。
もし外開きだったら、ふっとばされてたな、俺。
「さっきまで走ってただけさ」
「つまり、急ぎの用というわけか」
ついさっきまで、俺にムカイさんを頼るって発想がなかったのは、この豪快な言動が原因だ。
でも、よくよく考えてみればムカイさん自身が強い機械といえる。
これ以上なく適役だろう。
「……というわけでさ、ネットにアクセスして、その“M”の居場所を知りたいんだ」
「うむ……レベルによるが、多少のセキュリティなら突破可能だ……それを書いた人間の居場所も割り出せるだろう」
俺が事情を説明してから、ムカイさんがやや言葉を詰まらせるようになった。
「ううむ、“複雑な心境”とは、こういう状態を言うのだろうか」
その原因は、たぶん『ラボハテ』について思うところがあるからだ。
ムカイさんは、秘密結社『シックスティーン×シックスティーン』によって作られた戦闘用ロボットだった。
一昔前までは、『ラボハテ』や俺の母さんと激闘を繰り広げていたとか。
「大丈夫? ムカイさん」
「問題ない。あの戦いの日々は過去の履歴。元より『ラボハテ』自体に執着などないのだ」
ムカイさんはそう返すけれど、演算処理の遅れは正直だ。
今でこそ敵対していないものの、因縁の相手であり、ルーツとも言える存在であることに変わりはない。
そんな『ラボハテ』の名前をこんな形で聞いたんだから、そりゃまあ戸惑うよな。
「それで……頼んでもいい?」
「むう、それならオマエの母もサイボーグだから出来るんじゃないか」
「お母さん、機械にそこまで強くないんだよ。ネットとかも全然ダメ」
「“機械に強くない”……あいつ、ワレに何度も勝ってきたくせに……うごごご」
ムカイさんは頭を抱えだした。
何か重い処理に引っかかったらしい。
「……よかろう、オマエの母にすら不可能なものを攻略してやる」
だけど十数秒後、その処理を何とか終えたようだ。
ムカイさん、“M”の捜査協力を力強く引き受けてくれた。
「プライバシーポリシーなど、ワレの力の前では無力と知れ」
そうして俺が目的地へ走っている時、兄貴は乗り物で優雅に移動していた。 「それで弟は、“M”の話を鵜呑みにする人間が多いのは『奴がインフルエンザだから』って言ったんですよ...
「ネットにある怪文書の9割は内実そんなもんだよ。結果、真実に近かったとしても、それは賽の目を当てただけ」 それを知った途端、目に映る『Mの告白』の文章が上滑りしていくよう...
俺は兄貴の言っていたことが気になって、翌日タイナイのところを訪ねた。 兄貴の友達だし、ネットに別荘もってる人らしいから、今回の件についても詳しそうだと思ったからだ。 「...
そうして放課後。 俺は足早に家に帰ると、すぐさま自分の部屋に向かった。 パソコンで“M”について調べるためだ。 「……ギリシャ文字?」 だけど目的の情報が見つからない。 ひ...
ところかわって兄貴の学校でも、“M”についての話がクラスで繰り広げられていた。 中でも、兄貴たちの熱量はすごい。 「『ラボハテ』のゴタゴタ知ってるっすか? いやー、結構シ...
俺は教材の入ったカバンを机に置いたまま、その輪に勢いよく跳び込んだ。 「そんなに気になるニュースがあったのか?」 「『ラボハテ』の新プロジェクトでトラブルが起きたんだよ...
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」なんて、マリー・アントワネットは言っていなかったらしい。 なんで彼女のセリフとして広まったかというと、“あいつなら言いかね...
もう終わったら
≪ 前 ムカイさんは自分の電脳と、ネット回線をケーブルに繋いだ。 もっと大掛かりかと思っていたけど、パソコンとほぼ同じやり方なんだな。 「これが“M”とやらの文書か……では...
≪ 前 「僕が?」 「あの文章が書かれた場所は、この家だってのが分かった。つまり、書いたのもタイナイだろ」 まったく、とんだ愉快犯ピエロじゃないか。 まるで自分が書いてい...