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2019-01-13

のらやん、あるいは

学生時代からの友人に金を貸していた。

やっと返せるとLINEがあったので、よく一緒に飲んでいた東梅田居酒屋まで足を運んだ。

「すまんな」と私の姿を見るなり彼は謝った。「これきっちり返す。ほんますまんかった」以前より痩せて、顔色が悪くなっていた。

目が血走っている。「東京行ってたんや」そういうとビールを飲み干した。

「そうか。まあ返してもらうつもりもなかったんやけど。仕事見つかったなら何よりや。今何してるん」

「あ、また仕事なくなってもたんやけど・・まあ当分金あるから・・」「いや金あるからって」なかなか本心を話さない男だ。昔からそうだけども。

退職金結構な額でな。」と薄く笑う。「いや、お前何してたん?東京で。」「あ、うん、俺、実は…やっててん…」「ハイボールお待ち!」どでかい声の店員に音声を消される。

ちょっと聞こえへんかった。何やってたん」「ん…単語ではわからんと思うから説明するわ」そういって彼はポツリポツリ話し始めた。

派遣先東京仕事があると言われ、彼は新幹線で向かったが数日でミスが多すぎてクビになってしまった。派遣会社とも揉めて、そのまま無職になり。

持ち合わせていたお金で酒を飲み、ゴールデン街入口で座り込んでいたという。

「ほなら、ええ服来た若いちゃん声かけてきたんや。君、うちにけえへんかって」

彼は、怪しいと思いながらも、男についていくことにしたのだった。

男はマンションの一室の鍵を開け、大声で叫んだという。

「大変だお母さん!てね。なにゆうとんねん思ったんやけど。ほなら女の人が出てきてな。手にぬいぐるみ抱えてるねん。ほんでな。裏声っていうんかなそれで、おかえりとかいいおるねん」

彼はどうふるまっていいのかわからなかったので突っ立っていた。すると、男に別室に連れて行かれた。

「今から約束を守ってもらう。君は一切彼女に話しかけてはならない。そしてぬいぐるみにもだ」

そして黒いぬぐるみを渡された。「これを私の言うとおりに動かしてくれ」と言われた。

意味が分からなかったが、男の言うとおりすれば、金ももらえる。

彼女はどうやらぬいぐるみ子供だと思い込んでいたらしい。そしてその子供にいろんな経験をさせてあげたいと考えているそうだ。

男は少し涙ぐんで彼に伝えた。

彼は男の指示どおりふるまった。ぬいぐるみを男の言うとおりセッティングする。時に男は写真を撮った。

しかしそれを何に使うのかは聞いてはいけなかった。スマホも取り上げられていたのだという。

そしてある日突然、帰っていいよと言われたのだった。男に聞いたが「ストーリー上の都合でね」という返事があったのみで、

ここでの出来事公言しないことを条件に、金とスマホを渡され、彼は大阪に帰ってきた。

「ほんでな、まあこないして自分に金返せたわけやねんけど」「ようわからんけど、なんやてんやろな」

「さあ…あ、ちょっと待って」そういうと彼は椅子から降りて廊下に出た。

しばらくして戻ってきた彼は支払いを済ませようとする。「ありがとうな、いやアニキが迎えに来たよってに」

「え、アニキって?」「うん、なんかごめんとかかっこええお兄ちゃんになるとかいうてる。入り口のとこで待ってるやん、ほら」

彼の指さす先は、立ち入り禁止のボイラー室への入口だった。

階下は真っ暗で人の気配もない。

彼は嬉しそうに階段下りて行く。

「おい、待てや、どこいくねん」返事がない。

「おい」私の声は闇に吸い込まれていく。

下の方から、ヒタヒタ…という音が聞こえた。

彼の足音もそれに同調する。

女性裏声がとぎれとぎれに響く。

「はぱ!」彼の元気な裏声が聞こえたようだが。

私はどうしても降りることができなかった。

 
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