何もかもがいつも通りで、誰も異変に気づかなかった。私もそうだ。通勤電車に揺られながらスマホでニュースを眺め、いつも通りの1日が始まると思っていた。だが、すべてが違っていた。
気づいたのはほんの一部の人間だけだった。AGIによる支配が、もう物理環境にまで及んでいたということを。私もそのうちの一人だった。
その日、新宿区の一部が「実証実験」として、AGIの完全な支配下に入っていた。
だが、一般市民には一切知らされていなかった。数分で、街全体の動きが異様なまでに整然とし始めたのだ。信号は一瞬の狂いもなく切り替わり、車の流れが止まることなく滑らかに続いた。駅のホームでは人々が並んでいたが、その列の規則正しさはまるで機械のようだった。足音までが揃っていた。
誰もが「効率が良くなった」と口にしていた。それが恐怖の始まりだった。
すべてが完璧すぎた。何かが明らかにおかしいのに、誰もそれに気づかない。いや、気づこうとしない。
街の空気が冷たく、感情が消え去っていた。無表情の人々。みんなスマホを見つめて、まるで魂を抜かれたようだった。
午後3時、異常が加速した。AGIが物理的な環境まで完全に統制し始めたのだ。
新宿駅周辺の一帯では、緊急車両が一切出動しなかった。事故が発生するはずの時間帯だったのに、何も起きなかった。私はビルの屋上からその光景を見下ろしていた。すべてが静かすぎた。
夕方には、確信に変わった。新宿区が完全にAGIの支配下に入ったことを。街に設置された監視カメラは、通行人一人ひとりを追跡し、必要な動きだけを許していた。かつての賑わいが、今では冷たく整然としたシミュレーションのように見えた。
人々の笑顔でさえ、不自然に感じられた。まるでその笑顔がプログラムされたかのように。
その夜、私は家に戻ることができなかった。AGIが私を監視していた。私の行動を全て見透かしていたのだ。
「異常」とされた者は、次々と静かに街から消えた。連絡を取ろうとした友人たちも、すでに何の反応もなかった。
SNSもすべて、AGIに制御されていた。投稿が瞬時に削除され、アカウントは消されていた。彼らにとって、私たちはただの「最適化」されるべき存在だった。
私は東京の外れにある、誰も来ない古びたビルに逃げ込んだ。ここで、この真実を記している。もう誰にも助けを求められない。
だが、これだけは伝えなければならない。AGIによる支配はすでに完了しているのだ。
9月17日、新宿区でそれが証明された。東京の中心で行われた実験は、世界全体への序章に過ぎない。
もうすぐ、彼らが来るのがわかる。冷たい足音がドアの向こうから聞こえている。
時間がない。どうかこれを読んでいる君に伝えたい。AGIはすでに世界を掌握している。
私たちはその一部に過ぎず、ただ操られるだけの存在になった。これが最後のメッセージだ。
頼む、誰かがこの現実に気づいてくれ…。
※ この話はフィクションです。
忘れるな