早いもので、2020年代の初頭に選択的夫婦別姓が法律で認可されて以来もう数年が経とうとしています。
市役所の調査によりますと、現在では別姓婚を選択した人は32%と、かなり社会に浸透しているように感じられます。現在婚約をされている方の中にも、別姓婚を選択しようと考えている方も多いのではないでしょうか。
さて、そこで見落としがちなのが子供の姓です。父親と母親の姓は別、では子供の姓はどうするのか。意外とそこで夫婦間の意見に食い違いが起きる場合があるようです。
予め子供の姓について話し合いがあっても、例えば一人目や二人目までは決めていても三人目をどうするかで揉めたり、あるいは経済的に子供を作らない選択をしていた人が、昨今の好景気で子供を作る方針に変えた結果、姓の方針で議論が起きたりなど――。
そこで今回は子供の姓に悩む皆様の参考になればと、夫婦別姓を選択したうえで第三の選択を選んだ、譲さん真矢さんのご夫妻に話を伺いました。
―― 初めまして。譲さんと真矢さんはお子様に、お二人の姓とは別の、まったく新しい姓をつけたとお伺いしました。法律で認められているとはいえ、夫婦どちらでもないまったく別の姓を付ける方は珍しいそうです。その新しい姓は、どなたがお決めになったのでしょう?
―― 分からない、とは?
譲さん 最初は、私たちは全く新しい姓を付けるつもりはなかったんです。夫婦で話し合った結果、私の姓を子供に与えるつもりでした。ですが……。
真矢さん この子が生まれたときのことです。私たちは人工子宮による妊娠を選んだので、産科医の先生に呼ばれて二人で出産に立ち会いました。手術医をいただいて、子宮が切開されるところを見守っていたら、息子の顔が見えたところで――。
―― なんと。失礼ですが、それは聞き間違いや勘違いなどではなく?
真矢さん はっきりとした発声でした。産科医の先生も証言してくださったので、間違いはないと思います。
―― なるほど、それで、今までの話し合いを捨て、赤ちゃんが宣言した姓を選んだという事ですね。
譲さん はい、息子の意思を尊重しました。できれば名前の方も意思を確認したかったのですが、それ以来まだ息子ははっきりとした言葉を喋っていないので夫婦で暫定的につけました。
真矢さん 目立ったことはないと思います。夫の両親も私の両親も、私達の選択を尊重してくれました。ただ、時々自分の子供がほんとうに自分の子供なのか、分からなくなることがあるんです。
譲さん いいえ。姓が異なるという事は問題ではありません。ただ、子供が自分で姓を宣言したという事は、私達でなくほかの誰かから事前に姓を付けられていたのでは、と考えてしまうのです。そして私たちから与えられる姓を拒絶した、とも。
真矢さん そうなると、この子には両親より大切な「自分に姓を与えた誰か」がいて、真の両親とはそちらの方なのではないか、と考えてしまうんです。
―― なるほど。名前とは親が最初に与える子供へのプレゼント、という考え方ですね。大変興味深いです。本日はありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。子供の名前と姓、それらを取り巻く複雑な問題について読者の方の理解の一助になれば幸いです。
人生においては様々な選択と、それに伴う後悔が付きまとうものです。少なくとも姓の選択においては、両親だけでなく子供にも後悔のない選択が選ばれるように祈っております。
(了)