2020-12-30

2020年数学小説に関する小さな後悔

今年、数学小説に関することで「やっておけばよかった」と思ったことがふたつあった。

ちょっとしたことなのでここに記録しておく。

1つ目。

『年刊SF傑作選 超弦領域』に収録されている円城塔短編ムーンシャイン」に

これを発展させたファイト-トンプソン定理は、「奇数位数の有限群は可換である」ことを主張する。

とあるのだけど、これを読んだ時に

ここの「可換」って「可解」の間違いだよな出版社に知らせておいた方がいいか

と考えたのだけど、ストーリーには何の影響もないディテールだしすぐ知らせる必要もないなと放おって忘れていたら、

今年出た伴名練 編『日本SF臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人から手紙』に

ムーンシャイン」が収録されていてこの部分がそのままだった。

2つ目。

奥泉光長編小説『雪の階』で、数学を愛好する主人公笹宮惟佐子に関して

微積分の初歩を終えたばかりの惟佐子には手が出せそうになかった。

描写されるところ(一章 七)があるのだけど、その直後に

初歩の参考書からはじめて高木貞治代数学講義』、ミハエル・グラッスス『高等数学入門』、竹内端三『函数論』と云った著作を惟佐子は独習し、いまは山畑氏から借りた解説書で解析学も少しずつ勉強をはじめていた。

という文が出てくる(作中の時期は昭和十年(1935年))。

竹内端三『函数論』は上巻(函数論. 上巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション)だけでも関数論(=複素関数論)のかなり詳しい部類の本で、

下巻(函数論. 下巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション)までいくと楕円関数論について詳しく扱っているような本なので、

それを「独習し」というのは「微積分の初歩を終えたばかり」という描写齟齬をきたしていると思う。

竹内端三『函数論』は現在でもわりと読まれていて数年前に復刊もされている本なので、誰も気にしないにしても記述修正した方がいいじゃないかな、

と思うだけ思いながら特に何もしていなかったら、

つい先日『雪の階』が文庫化されて上にあげた部分はそのままだった。

変更されていたかは分からないけど、一応どこかに言っておけばよかったとちょっと後悔した。

そもそも、本のミスや誤字脱字を見つけた時どのくらいの人が指摘・報告をしているのだろう?と思った。おわり。


数学小説について、おまけ。

現在発売中の数学セミナー2021年1月号の特集が「SFと数理科学」で、

円城塔による総論数学との絡みのある小説をいろいろあげていて、

同じく現在発売中のSFマガジン2021月2月号の小特集に伴名練が寄稿した文章の中で

構想していたという数学SFアンソロジーに収録するつもりだった作品をあげている。

  • 高木…この作者は数学コンプでもあるのかな 難しくて読めないし今の東大生ならみんな杉浦だろうし適当にググったんだろうな

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