「見た目が全てじゃないけど、第一印象になりやすいのは確かなんだから。もっとオシャレに気を使うべきよ」
「い、いつも色んな服に着替えてるよ」
タオナケの明け透けな態度に、ドッペルはしどろもどろな応答しかできない。
そんな、ほぼ一方通行なやり取りが、しばらく続いた。
いわば水と油といえた。
この場合、どちらが水で、どちらが油かは知らないけど。
そして大方の予想通り、それが先にやってきたのはタオナケの方だった。
「あのねえ、こういうのって色々と理由をつけて複雑な問題にしたがるけど、実際のところ答えはシンプルよ。自分がどう思い、それに対し自分がどう行動するか」
「は……はあ」
「そこには数学で習う方程式なんていらないし、電卓が必要なほど膨大な数も要求されない。私たちガキでも解ける、算数レベルの単純な問題なの。ドッペルは分かりきった答えを先送りにしているだけよ」
それはアドバイスのようでいて、煮え切らないドッペルを半ば責めているようにも聞こえた。
「あんた人見知りだから、誰かを演じることで緊張しないよーにしてるんでしょ。“ありのままの自分”を見せることが怖いから!」
だけどドッペルがいくら消極的とはいえ、いくらなんでも踏み込みすぎたようだ。
タオナケの言葉の何が、どのように作用したかは分からないが、それは確実にドッペルの神経を逆なでしていた。
「あー!」
ドッペルはおもむろにマスクを外すと、か細い声を精一杯にはりあげた。
そして狂ったように両手で髪をかき乱し始める。
突然のことにタオナケ含めた俺たちは戸惑うしかなく、ただその様子を見ているだけだった。
「はあ……はあ」
肺の酸素がひとしきり出て、ドッペルは息を切らす。
すると、そこには俺そっくりの人相が現れ始めた。
それはドッペルお得意の変装であり、その中でも十八番のモノマネだった。
普段なら仲間でも見分けるのが大変なほどだけど、さすがにこの状況では変装の効果は発揮されない。
タオナケが“ありのままの自分を”と言って間もなく変装して、“自分以外の誰か”の姿をしてみせる。
それは明らかな拒否反応を示していた。
ドッペルは俺の喋り方を真似ながら言った。
タオナケは質問の意図を図りかねているようで、漫然と答えるしかない。
「言ってる意味が分からないんだけど、考えるまでもないわ。私は私、それ以上でも以下でもないわ」
清々しい回答だ。
しかし、ドッペルの表情は曇っていく。
多分そういうことじゃないんだろう。
「もういいよ、これ以上タオナケとは話したくない」
それを残して、ドッペルはその場を去っていった。
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久しぶりにリアルタイムで見たわ
はいはい……昨日の靴下探して散歩しますよ……恋は盲目……リピートアフターミー……恋は盲目……
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