2020-12-15

[] #90-4「惚れ腫れひれほろ」

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「見た目が全てじゃないけど、第一印象になりやすいのは確かなんだからもっとオシャレに気を使うべきよ」

「い、いつも色んな服に着替えてるよ」

あんたのそれは変装用でしょ!」

タオナケの明け透けな態度に、ドッペルはしどろもどろな応答しかできない。

そんな、ほぼ一方通行なやり取りが、しばらく続いた。

二人の価値観は、なんだか根本的な部分で噛み合っていない。

いわば水と油といえた。

この場合、どちらが水で、どちらが油かは知らないけど。

いずれにしろ我慢限界が来るのは時間問題だ。

そして大方の予想通り、それが先にやってきたのはタオナケの方だった。

「あのねえ、こういうのって色々と理由をつけて複雑な問題にしたがるけど、実際のところ答えはシンプルよ。自分がどう思い、それに対し自分がどう行動するか」

「は……はあ」

「そこには数学で習う方程式なんていらないし、電卓必要なほど膨大な数も要求されない。私たちガキでも解ける、算数レベルの単純な問題なの。ドッペルは分かりきった答えを先送りにしているだけよ」

タオナケの言葉はどんどん熱を帯びていく。

それはアドバイスのようでいて、煮え切らないドッペルを半ば責めているようにも聞こえた。

あんた人見知りだから、誰かを演じることで緊張しないよーにしてるんでしょ。“ありのまま自分”を見せることが怖いから!」

「“ありのまま自分”……?」

だけどドッペルがいくら消極的とはいえいくらなんでも踏み込みすぎたようだ。

タオナケの言葉の何が、どのように作用たかは分からないが、それは確実にドッペルの神経を逆なでしていた。

「あー!」

ドッペルはおもむろにマスクを外すと、か細い声を精一杯にはりあげた。

そして狂ったように両手で髪をかき乱し始める。

突然のことにタオナケ含めた俺たちは戸惑うしかなく、ただその様子を見ているだけだった。

「はあ……はあ」

肺の酸素がひとしきり出て、ドッペルは息を切らす。

呼吸を整えながらグシャグシャになった髪型を直している。

すると、そこには俺そっくりの人相が現れ始めた。

それはドッペルお得意の変装であり、その中でも十八番モノマネだった。

普段なら仲間でも見分けるのが大変なほどだけど、さすがにこの状況では変装効果は発揮されない。

それでもあえてやった意味を、俺たちは何となく分かっていた。

タオナケが“ありのまま自分を”と言って間もなく変装して、“自分以外の誰か”の姿をしてみせる。

それは明らかな拒否反応を示していた。

タオナケはさ……自分が何者かって考えたことはある?」

ドッペルは俺の喋り方を真似ながら言った。

タオナケは質問意図を図りかねているようで、漫然と答えるしかない。

「言ってる意味が分からないんだけど、考えるまでもないわ。私は私、それ以上でも以下でもないわ」

清々しい回答だ。

しかし、ドッペルの表情は曇っていく。

多分そういうことじゃないんだろう。

「もういいよ、これ以上タオナケとは話したくない」

あいつにしては珍しい、仲間への敵意と嫌悪言葉

それを残して、ドッペルはその場を去っていった。

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