だけど、この日のタオナケは、しばらく経っても瞳の輝きが治まらなかった。
「あ~あ、どっかにいい感じの恋愛模様(ラブ・パテーン)転がってないかな~」
儚げに虚空を見つめながら、なんだかよく分からないことを口走っている。
「タオナケのやつ、なに言ってんだ」
仲間のミミセンが言うには、タオナケは“何らかの成分”を過度に欲している状態らしい。
それが恋愛模様に含まれていて中毒を引き起こしているんだとか。
「恋愛モノの見過ぎで、そんなことになるのか? 酒やタバコじゃあるまいし」
「タオナケが恋愛モノを見てるとき、よく“甘酸っぱい”って言ってただろ。つまり砂糖が含まれてるんだよ」
そういえば聞いたことがある。
「まさか、砂糖があんなものにまで含まれていたなんて。恐ろしい話だ」
「マスダが思っているよりも、この世は中毒になるもので溢れてるんだ。大抵の場合は摂りすぎなければ問題ないんだけど……」
“過ぎたるは猶及ばざるが如し”なんて言葉が現代でも残っているのは、人間はそれだけ程々に楽しむことができない生き物だからなんだろう。
摂取することが日常になると、満足に必要な量はどんどん増えていってしまう。
タオナケはその加減ができなくなっているんだ。
「それにしても、タオナケのやつ。“恋愛”ではなく“恋愛模様”が欲しいんだな」
つまり恋愛そのものを欲してるわけじゃなくて、あくまで恋愛に含まれる糖分を摂取したいだけ。
酒の味が分からなくなるほど酔っ払ってる人間が、それでも酒を飲み続ける状況に近い。
どうやら、とうとう酔っ払いが他人に酒を飲ませようとしてくる段階らしい。
自称恋愛上級者による、ラブハラスメントが始まろうとしていた。
「そういえばさ、マスダのお兄さんとは今どんな感じ?」
「え……?」
今回、その被害者は仲間のドッペルだった。
地球は回っている。 そして太陽のまわりを周っている。 いわゆる自転と公転ってやつだ。 これらが巡り巡って、太陽が地球を照りつける箇所が変わってくる。 それによって気温が上...
久しぶりにリアルタイムで見たわ
はいはい……昨日の靴下探して散歩しますよ……恋は盲目……リピートアフターミー……恋は盲目……
≪ 前 ドッペルが俺の兄貴に好意を持っているのは、仲間はみんな知っている。 だけど、その好意がどんな色をしていて、どんな形をしているかはボンヤリとしていた。 たぶんドッペ...
≪ 前 「見た目が全てじゃないけど、第一印象になりやすいのは確かなんだから。もっとオシャレに気を使うべきよ」 「い、いつも色んな服に着替えてるよ」 「あんたのそれは変装の...
≪ 前 「何なのよ、いったい……」 辺りに重苦しい雰囲気が漂う。 タオナケはその居心地に耐えられず、蚊帳の外だった俺たちに助けを求めた。 やっと頭が冷えてくれたらしい。 俺...
≪ 前 まずは情報収集だ。 今の俺たちでは話にならない。 そもそも現時点で分かるようなことなら、こんな事態には陥っていないだろう。 「アテはあるの?」 「少なくとも道端には...
≪ 前 こうして俺たちは、兄貴のバイト先であるレンタルビデオ店へとやってきた。 「冷やかしなら帰れ」 兄貴は開口一番これだ。 職場に身内が進入してきたわけだから、あっちか...
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≪ 前 さすがに弟と間違うなんて失礼すぎる。 そりゃあ、もう焦った。 当時は、ほぼ面識のない相手だったからな。 弟の友達だが、無口な子だったからマトモに話したことはない…...
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≪ 前 「俺はドッペルを弟と見間違えた。その状況を切り抜けるため、どうしたか思い出してみろ」 「えーっと、陽気に振舞ってウヤムヤにしようとした?」 「確か、気のいい兄(に...
≪ 前 「要は君らの気にしていたことはマクガフィンに過ぎないってことだ。そこが重要だと考えるのは作り手と一部の狂信的ファンだけ。ヒッチコップの教えを忘れちゃいけない」 い...