2020-12-13

[] #90-2「惚れ腫れひれほろ」

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だけど、この日のタオナケは、しばらく経っても瞳の輝きが治まらなかった。

「あ~あ、どっかにいい感じの恋愛模様(ラブ・パテーン)転がってないかな~」

儚げに虚空を見つめながら、なんだかよく分からないことを口走っている。

タオナケのやつ、なに言ってんだ」

「僕の見立てだと、あれは依存症の類だね」

仲間のミミセンが言うには、タオナケは“何らかの成分”を過度に欲している状態らしい。

それが恋愛模様に含まれていて中毒引き起こしているんだとか。

恋愛モノの見過ぎで、そんなことになるのか? 酒やタバコじゃあるまいし」

タオナケが恋愛モノを見てるとき、よく“甘酸っぱい”って言ってただろ。つまり砂糖が含まれてるんだよ」

そういえば聞いたことがある。

砂糖には中毒成分があって、それは下手な麻薬より強力だと。

まさか砂糖あんものにまで含まれていたなんて。恐ろしい話だ」

「マスダが思っているよりも、この世は中毒になるもので溢れてるんだ。大抵の場合は摂りすぎなければ問題ないんだけど……」

“過ぎたるは猶及ばざるが如し”なんて言葉現代でも残っているのは、人間はそれだけ程々に楽しむことができない生き物だからなんだろう。

摂取することが日常になると、満足に必要な量はどんどん増えていってしまう。

タオナケはその加減ができなくなっているんだ。

まあ、傍から見ていて、病的なまでに熱中していたからな。

本当に病気になったとしても不思議じゃあない。

「それにしても、タオナケのやつ。“恋愛”ではなく“恋愛模様”が欲しいんだな」

まり恋愛のものを欲してるわけじゃなくて、あくま恋愛に含まれる糖分を摂取したいだけ。

酒の味が分からなくなるほど酔っ払ってる人間が、それでも酒を飲み続ける状況に近い。

「恋のアウトサイダーになれないかしら……」

そう言いながらタオナケは周囲をキョロキョロ見渡し始めた。

どうやら、とうとう酔っ払い他人に酒を飲ませようとしてくる段階らしい。

自称恋愛上級者による、ラブハラスメントが始まろうとしていた。

「そういえばさ、マスダのお兄さんとは今どんな感じ?」

「え……?」

今回、その被害者は仲間のドッペルだった。

もはや、ここまでくると飲酒運転による交通事故だ。

救急車警察も呼べないという点では、なお性質が悪い。

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