さすがに弟と間違うなんて失礼すぎる。
そりゃあ、もう焦った。
弟の友達だが、無口な子だったからマトモに話したことはない……くらいの印象だった。
その程度の間柄なのに、ちょっとフザけた感じで声をかけてしまったのも気まずい。
だが一度そう振舞ったなら、なかったことにはできなかった。
俺は気さくな対応を崩さず、徐々に軌道修正することにしたんだ。
「俺のこと覚えてるか? いつも弟が世話になってます、なんだが」
やや大袈裟に身振り手振りを交えながら、俺は一方的に世間話を始めた。
弟と呼んだのは冗談、もしくはあっちの聞き間違い。
そう遠まわしに思わせて、有耶無耶にしようとしたのさ。
「帰り道こっちなんだな。ご近所さんとは知らなかったぜー」
だけど俺は演劇部じゃあない。
「……お?」
その時、俺の顔に何か冷たいものが当たったのを感じた。
今まで中ぶらりんだった天気が、いよいよ本格的に傾こうとしていたんだ。
“天の恵み”なんていうけど、正にこういうことなんだと思ったね。
「ごめんな、引き止めて。お詫びと言っちゃなんだが、これ使えよ」
もしかしたら折りたたみ傘を持っていたかもしれないが、どちらでもいい。
「遠慮すんな。兄は弟を大事にするもんだ。弟の友達は、同じ弟みたいなもんだよ」
申し訳なさそうにするドッペルに、俺は気にするなと言いながら退散した。
「いま考えても、我ながら強引な対応だったな」
兄貴は気恥ずかしそうに、そう語った。
「そこは相合傘くらいしてほしかったな~」
まあ確かにマンガのように綺麗じゃないし、劇的なエピソードとは思えない。
それでも、ドッペルにとって何か感じ入るものがあったのだろう。
実際、俺の変装をし始めたのも、その頃だった気がする。
≪ 前 「そういう個人的な内実を知るのって、一定の信頼関係を得てこそだと思うんだが。お前達のやっていることは順序が逆だ。信頼回復のためにやっているのなら、こそこそ探るよ...
≪ 前 こうして俺たちは、兄貴のバイト先であるレンタルビデオ店へとやってきた。 「冷やかしなら帰れ」 兄貴は開口一番これだ。 職場に身内が進入してきたわけだから、あっちか...
≪ 前 俺たちはドッペルの真意を読み取り、その葛藤を理解しなければならない。 だけど今の俺たちでは話にならない。 そもそも現時点で分かるようなことなら、こんな事態には陥っ...
≪ 前 「何なのよ、いったい……」 辺りに重苦しい雰囲気が漂う。 タオナケはその居心地に耐えられず、蚊帳の外だった俺たちに助けを求めた。 やっと頭が冷えてくれたらしい。 俺...
≪ 前 「見た目が全てじゃないけど、第一印象になりやすいのは確かなんだから。もっとオシャレに気を使うべきよ」 「い、いつも色んな服に着替えてるよ」 「あんたのそれは変装用...
≪ 前 ドッペルが俺の兄貴に好意を持っているのは、仲間はみんな知っている。 だけど、その好意がどんな色をしていて、どんな形をしているかはボンヤリとしていた。 たぶんドッペ...
≪ 前 だけど、この日のタオナケは、しばらく経っても瞳の輝きが治まらなかった。 「あ~あ、どっかにいい感じの恋愛模様(ラブ・パテーン)転がってないかな~」 儚げに虚空を見...
地球は回っている。 そして太陽のまわりを周っている。 いわゆる自転と公転ってやつだ。 これらが巡り巡って、太陽が地球を照りつける箇所が変わってくる。 それによって気温が上...
久しぶりにリアルタイムで見たわ
はいはい……昨日の靴下探して散歩しますよ……恋は盲目……リピートアフターミー……恋は盲目……
≪ 前 「それが今のドッペルを形作っている、いわばルーツってわけだね」 なぜドッペルがそうしようとしたのか、具体的な理由はハッキリしない。 そりゃあ、いくらでも推測はでき...
≪ 前 「俺はドッペルを弟と見間違えた。その状況を切り抜けるため、どうしたか思い出してみろ」 「えーっと、陽気に振舞ってウヤムヤにしようとした?」 「確か、気のいい兄(に...
≪ 前 「要は君らの気にしていたことはマクガフィンに過ぎないってことだ。そこが重要だと考えるのは作り手と一部の狂信的ファンだけ。ヒッチコップの教えを忘れちゃいけない」 い...
≪ 前 俺たちはドッペルを追いかけた。 だけどスタートダッシュで引き離されているのもあって、差を縮めるのは困難を極めた。 さらにドッペルは右に曲がったり左に曲がったり、フ...