2020-12-10

◯◯神話

私はそのコミュニティの中で最年少だった。

なぜ私がそのコミュニティに入ったのか、正確なところは覚えていない。

しか最年長のAと、なんとなく憧れていたBに、参加してくれないか、と声をかけられたのが始まりだったような気がする。

自分落ちこぼれだと思っていたので、優秀なAとBに声をかけてもらえて素直に嬉しかった。

そのコミュニティでは、AとBが私をいじって、いつもニコニコしているCと美人なDがそれを嗜めるというのがお決まりパターン

いじられ役というのはとても楽で、共通目標もあったということもあり、居心地がいいコミュニティだった。

私がそのコミュニティに属してから半年後に訪れた、とある年末

メンバー全員で、C宅で忘年会をやることになった。

C宅は、その父が所有する高級マンション

確か兄弟と二人で住んでいると言っていた気がする。

部屋から夜景が見えて、みんなで「この部屋エロすぎだろ!」と盛り上がった。

たんまり酒を飲んで、文字通り歌い踊り、その年というより、約1年半後に控えた共通目標を忘れるため、盛大に騒いだ。

メンバーのうち、私、A、Eがその家に泊まらせてもらうことになった。

それぞれ部屋を割り当てられて、私は一人でリビングソファで寝させてもらうことにした。

酔いも手伝ってすぐに寝入ったところ、履いていたズボンを誰かに脱がされたことに気づいた。

何が何だかからず、うっすら目を開けて見るとCが私にまたがっていた。

体が固まった。声が出なかった。

なんで私なのかわからなかった。

眠れないまま朝になった。

Cはいつもどおりニコニコして「朝だよー起きてー」と私を起こしにきた。

怖かった。

C宅を出て、AとEとブランチがてら牛丼屋に行った。

全く食欲がなく、牛丼一口しか食べられなかった。

飲み過ぎか〜?と心配された。

昨晩あったことを相談しようかと思った。

でも、いつもいじられている私がそういう対象になること、いつも温厚なCがそういうことをすること、どっちも信じてもらえないと思った。

結局何も言えず解散した。

何事もなかったかのように年が明けた。

コミュニティも何事もなかったかのように継続した。

生理が遅れた。

あの一月半本当に怖かった。

妊娠していないことがわかって安堵した私はようやく友だちに相談できた。

号泣した。

の子も一緒に泣いてくれた。

然るべきところに相談に行こうと言ってくれた。

でも怖くていけなかった。何が怖かったのかわからないけど。

コミュニティを抜けた方がいい、と、後押ししてくれた。

ひたすら怯える私を心配して、友だちが、Bに、私とCがトラブルになっていると話してくれて、無事にコミュニティを抜けることができた。

それから2年が経ち、性被害についての研修を受ける機会があった。

それまであの夜のことなんてすっかり忘れていたのに、急に思い出して涙が止まらなくなって、部屋を飛び出し、トイレに駆け込んだ。

自分自分にびっくりした。

講師先生心配して追いかけてきてくれた。

フラッシュバックだと教えてくれた。

心に傷が残っていること、そしてその傷が癒えていないことに初めて気づいた。

その後、私は就職し、夢だった独立も果たした。

そして、先日、知らない番号から電話が来た。

Cだった。

仕事の依頼だった。

血の気が引いた。体が固まった。動悸が激しくなった。

私が、私の体からすーっと離れていった。

私の体は、親しい旧友と楽しく会話していた。

それから悪夢ばかり見ている。

眠れるだけマシなのかもしれない。

指でこじ開けられる感触、声が出せない、ねじまれる痛み、体が動かない、口に広がる味、怖い、込み上げる吐き気、なんでかわいくもない魅力的な体でもない私なの?

あれからもう長い年月が経っているのに、全部鮮明に思い出せる。

女一人で泊まらなければよかったのに。

やめてと一言言えばよかったのに。

口に含んだまま、服が乱れたまま、家を抜け出して、交番に駆け込めばよかったのに。

牛丼屋で相談すればよかったのに。

いや。私は悪くない。そう思いたい。

今日はぐっすり眠りたい。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん