風の噂で、高校時代の知人(というよりは心の距離が近かったと思うが、今はやや疎遠なので知人でいいだろう)が離婚すると聞いた。
本人からの報告ではなく伝聞によるものだが、離婚の理由をまとめると「ライフスタイルの不一致」というやつらしい。
血の繋がらない他人が一つ屋根の下に住む以上我慢することも多々あるのは当然なので、結婚してから今まで上手くやり過ごしてきたという。
一日中同じ家に篭もるようになり、知人の積もった我慢が爆発。離婚するに至った。ということである。
で、知人が爆発した理由というのが「配偶者が汚部屋で過ごしても何ら問題のないタイプだったため、何度言っても掃除をせず散らかしっぱなし。知人は綺麗好きだったが、自分だけが掃除をし続けるのに我慢ならなくなった」というものだった。
その理由を聞いて、私は意外に思った。
「え、アイツ綺麗好きだったの?」と。
知人の方が汚部屋側の人間かと思っていたから、二回くらい聞き返した。それでも綺麗好きなのは知人で間違いないらしい。
ではなぜ知人が汚部屋側だと思っていたかというと、(学校で用意してもらう個人のロッカーがそれほど綺麗でもなかったとかの理由もあるが)私は彼女に、ラノベを借りパクされているからだった。
四刊完結くらいの長さのラノベで、別の友人に貸していたものが返ってきたところ「私もそのラノベ気になってたから読ませて?」と知人に言われて二冊貸したのだ。以前からそういったやりとりはしていたし。
ラノベの感想を早く聞きたくもあったが、読書速度は人によるので、うずうずしつつも貸した一週間後くらいにせっついてみた。
返事は「うーん、忙しくてまだ読み途中」
モヤモヤしつつも考査や短期休暇を挟んで、流石にもう読めただろうとまたせっついてみれば「ごめん、まだ」
「じゃあそろそろ返してもらっていい?」
「明日持ってくる」
と返事はされたが、次の日に返ってくることはなかった。
今だったらそこまで粘らなかっただろうが、高校生にとってラノベ二冊分の金額はそこそこ大きくて、何度も返してもらうようにせっついた。
それでもあまりしつこく言いたくなかったから、三日後、とか一週間後、とか期間を置きつつ言った。返ってこなかった。
「私の本、どこにあるの?」と聞いても
「部屋のどこかにあると思う」みたいな返事ばかりだった。
知人の家は遠くて、そこまで取りに行くことはできない。
だから言った。言っても待っても本は返ってこなかった。
永遠に「返して」と言い続けて食い下がって喧嘩するほどに愛読していたシリーズではなかったから、途中で本は諦めた。
(それ以外の部分では馬が合ったので、卒業まで仲良く付き合っていた。修学旅行も一緒のグループだったので、私だけが勝手に仲が良いと思っていたわけではないと信じたい。
ちなみに現在関係が疎遠なのは、私が県外に進学しやりとりが減ってしまったからなので、借りパクの件とはあまり関係がない)
私の本は、知人の本棚の奥底に沈んだんだか又貸しされたんだか売られたんだか紛失されたんだか知る由もないが、知人の理由を信じて「本が見つからないくらい部屋が汚いんだろうなー、だらしないなー」と思っていた。
買い直して返す、とか本の代金を返す、とかの代替案が出なかったのも「だらしないなー」であった。知人の誠意で言ってほしかったので、私からは言い出さなかった。
お菓子やジュースを奢りあっていたので、本二冊くらいの金額は返ってきていたのかもしれないが、「本の代わり」としては未だに返ってきていない。
という訳で、知人の「綺麗好きなので離婚」という話の感想が「わかるーーーー!こっちは綺麗好きなのに向こうがそうでないと辛いよね」とかではなく「どの口が言ってんの?!」であった。
別に今更、ラノベ二冊分の損失で「離婚wwwwwwざまぁwwwwwww」とは思わないが、心にはずっと800円の杭が刺さったままで、「ああ……うん……」みたいな気持ちでいる。
物の貸し借りにおけるだらしのなさって他に問題がない人間の中にピンポイントで存在していたりして、伏線がないから警戒できずに貸しちゃってから気づくよね