出勤する際は意地でも座りたいから鈍行で長時間掛けてノロノロ通勤する。
今回の出勤もいつも通り、端の座席を一目散に確保して周囲を気にせず、スマホで電子書籍を読み耽っていた。
ある駅に着くと、視界ギリギリに入っていた手すりを突然飛び出してきたシワシワの手が勢いよく掴んだ。
ふと目線を上げると「どっからどう見ても婆さん」、という風体の高齢女性がよろけながら乗車してきたのだった。
すぐ後ろにはヘルパーさんか孫か分からないが、30代くらいの私服の女性が心配そうな眼差しで、
婆さんを支えながら様子を見守っている。そりゃ心配だろう。遅めとはいえ通勤通学時間帯だ。
都心に近づくにつれ乗客は増え、周囲には人がごった返しはじめていた。
ふと辺りを見渡すと当然ながらどの座席も完全に埋まっており、8割以上の人々は先程までの自分と
同じく手元のスマホに視線を落とし、そのうち半数以上の人は耳も塞いで、外界との交流を遮断している。
その事実が視認できた瞬間、「ああ、なんて醜い光景だ。」と反射的に感じてしまった。
つい先程まで自分だってその「醜い光景」を構成する片棒を担いでいたのにも関わらず、だ。
「よし、席を譲ろう。」何食わぬ顔で一旦スマホの中の文字列に目線を戻しながら、そう決意した。
ただ自分の中にも若干の葛藤が生まれた。「ここで譲ったら、少なくともあと2~30分はすし詰めで立ちっぱなしだよな。」
「今日何の為に早寝早起きしたんだろう。」・・・いやいや、それどころじゃないだろう。バカ言うな。恥を知れ自分。
この間の思考の変遷は自分でも驚くほど高速に行われた。時間にして20秒くらいではなかろうか。再び視線をスマホから上げる。
定刻通り電車がぐらりと動き出す。婆さんはよろめく。同伴女性は急いで支え、心配そうに声を掛ける。婆さんは小声で礼を言って頷く。
この間も彼女らに誰も席を譲ろうとする人間は出てこない。視線を送るものすらいない。どうなってんだこの国は、ええ?
この事態を認識しているのは俺だけなのか?それとも誰もが薄々気付いてるが、手を差し伸べないのか?
なんというか、やり場のない怒りが沸々と湧いてきてしまった。いや、ここでキレてもしょうがないんだけど。
よーし、このクソッタレな現代社会を象徴する1ページを俺が打破してやろうじゃないか。こん畜生め。
意を決してむんずと立ち上がり、婆さんの前に立ちはだかる。一瞬戸惑う婆さんと同伴女性。
先程まで自分の座っていた座席に向かって上に向けた手のひらを差し出し、「どうぞ」と声を振り絞った。
「いやいや、いいですよ。」婆さんは、はにかみながら言う。いい訳なかろうが!受け取りなさいって!
「いやいや、いいですから。」こっちも折れんぞ。婆さんの目を見据えて力強く、毅然とした態度で続ける。
「ああ、ああ、ありがとうございます。」婆さんはすぐに折れた。頭をペコペコ下げてよろめきながら、席に座った。
そりゃ婆さんも本心では座りたいだろう。同伴女性からも同様の礼と会釈を貰う。これで一丁上がりだ、うむ。
こうして、「クソッタレな現代社会を象徴する1ページ」を打ち破ることに成功した俺は僅かな達成感と大きな気恥ずかしさを覚えながら、
婆さんと同伴女性が立っていたドア脇に陣取り、つい先程まで婆さんの命綱だった手すりに寄り掛かり、再びスマホに目を落とした。
それからしばらくの間、目では文字を必死に追いかけているのに、電子書籍の内容はぜんぜん頭に入ってこなかった。
マスクの中の頬っぺたとマスクを引っ掛けてる耳がジワジワ熱を帯びてくるのを感じた。ああ、マスクしててよかった。
みなさん、もっと席を譲りましょうね。以上。
でもブラック労働に従事せざるを得ず体調が常に悪いキモくて金のないおっさんには席を譲る必要はないんですよねわかります
ワイは席を譲ったあとは車両変えるか1回降りてる 自分の目的地駅が近い場合はそのままでいいけれど、遠慮された後なんか特に気まずいもの 増田もそうすると良いと思う
頑なに席に座ろうとしない人は素直に座って欲しい あの微妙な空気は誰も得しない
ライバルがステンカラーズの人かな? 敬意を表します。
感動したお婆さんの年金の幾分かを ほとんど年金を貰えない世代の増田に割譲してあげる制度ができないかな。
釣り師ってなんでこんなに醜悪な文章しか書けないの?