ミサイル発射実験や、核実験のたびにテレビに写る金正恩の写真。
優れたプレゼンターが自然な所作のうちにパワーポイントのリモコンでスライドを”次へ”と送るように、自然に更新されていく金正恩のスナップ。
世界中の液晶デバイスが、こないだの金正恩の笑顔から、今日の金正恩の笑顔へ切り替わる。
屈託のない若いガキ大将が「世界中にやったったしー」と言わんばかりの笑顔で、周囲の将軍たちを笑わせようとしているアレ。
……ところで2016年はナショナリズムが先進国を席巻したと言われるけれど、金正恩のプレゼンの前ではたかが民主国家の国民主義にすぎない、って思える。
先進国のナショナリズムは、(得票率に関係なく)小選挙区で1位を獲り、比例代表の効率を最大化するためのプレゼンだ。
国民を票田とそれ以外に分け、同じ境界線に「我ら」と「あいつら」の線を引く手法。
金正恩のナショナリズム・プレゼンは意図も、対象も、焦点深度も違うものだよ。
スティーブ・ジョブズの初代iPhoneのプレゼンのハイライトをご存知だろうか?
アップルは「電話」「音楽プレイヤー」「ネットデバイス」の3つを作った、と言いながら、それは1つのiPhoneだった!ってアレ。
逆に金正恩のプレゼンは、1つの手口で3つの聴衆を絡め取る。……そう、屈託のない笑顔ならね!
・自国民に対して:安心、と同時に「世界中を敵に回してもかまわない」というロミオとジュリエットのロマンスを
・先進国国民に対して:アイツまじヤベーのいう恐怖と、同時にドラマを持った一人の男の存在感を
・先進国指導者に対して:憧憬と親愛を獲得した指導者を斬首しても、泥沼のゲリラ戦と国内世論の暴発がめっちゃリスクだな、の忌避感を