顔もやや紅潮しているように見えた。
これはひょっとすると……。
弟の平均体温なんて知らないが、熱がある……ような気がする。
風邪だろうか。
そこで母にも診てもらうことにした。
サイボーグである母にはいくつかの機能が搭載されているが、その中にはメディカル機能もあった。
どういう構造なのかはよく分からないが、俺はこの機能にお世話になっているので信頼性は高い。
「……風邪ね。体を暖かくして、栄養を摂って、寝ておけばすぐに治るでしょ」
そして、そんなメディカル機能によって導き出された診断結果は、やはり風邪であった。
「そ、そんな……俺が風邪を」
弟は信じられないといった反応だが、最近の弟の無茶な行動を顧みれば不思議ではなかった。
バカは風邪をひかないというが、実のところ風邪を一番ひくのはバカであることは有名な話だ。
「じゃあ、そんなに不安なら病院で診てもらえばいいんじゃない?」
母からすれば風邪だと結論は出ているのだが、当の本人が納得しない以上そう言わざるを得なかった。
「じゃあ、よろしくね」
母が俺の肩をポンとたたく。
病院への付き添いは俺に任す、ということらしい。
「なんで俺が……」
「私はあの子が風邪だと確信しているもの。付き添う理由がない」
「俺だってそうだよ」
「でも、あなたは私と違って、風邪と確信できるに足るメディカル機能は持っていないでしょ」
母の理屈はイマイチ分からないが、弟の面倒を体よく押し付けたかったのだろうということだけは分かった。
「はい、診察料ね」
腑に落ちなかったが、俺は喜んで付き添うことにした。
母から貰った診察料は、つり銭を勘定することが容易な金額だった。
それが暗に俺への駄賃を示していることも瞬時に理解できたからだ。
いま思えば、道中クラスメートのタイナイに会ったのがマズかった。
「あれ、マスダ。弟くんも連れてどこ行くんだ?」
「弟が調子悪そうでな。たぶん風邪だと思うんだが、病院で診てもらおうと思って」
「へえ~、そうなんだ」
タイナイは俺の話を聞きながら、おもむろに携帯端末を取り出す。
「まあ、風邪だと思っていたら、実は重い病気だったってパターンもあるからね~」
そう言うとタイナイは、それっぽい病気についてドンドン説明していく。
目線は常に携帯端末の方を見ており、現在進行形で調べた情報をテキトーに言っていることは明らかだった。
だが弟は風邪で調子が悪くて冷静さを失っていたせいもあり、この怒涛の情報の羅列に大分やられてしまったようだ。
「タイナイ、お前なあ。医者でもなければ弟をロクに看てもいないくせに、いたずらにかじった程度の知識を披露するのはやめろ。単に煽るだけにしかならない」
「ああ、ゴメン。とはいえ、そんな僕の言うことなんか真に受けたりしないでしょ」
「あの弟の様子を見ても、そう言えるか?」
「ほら、兄貴早くしてよ! 間に合わなくなったらどうしてくれんだよ!」
「……ちょっと知識をひけらかしたかっただけなんだけど、まさか弟くんがあそこまでリテラシーがない状態だったとは」
「冷静な判断が出来る状態じゃない弟に余計なことを吹き込んだお前も大概だからな?」
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