メディアリテラシーは、「あらゆるものを疑え」っていう意味じゃない。
もちろん「情報の真偽を瞬時に正確に見分けられる」という能力でもない。
俺のクラスメートには、そういった解釈で振舞おうとする人もいるが。
騙されたときの嫌悪感や、騙されたくないという思いが、そういった過敏さに繋がるのかもしれない。
「単に横文字に弱いだけじゃ」って弟は言うけどな。
まあ、聞いてくれ。
まるでセールスマンのような距離感の取り方で、家に押しかけてきたからだ。
まあ、どっちでもいい。
「やあ、マスダ。ボクの名前はガイド。ここよりも遥か未来からやってきたんだ」
つくづく時代錯誤だ。
「物理的にありえない場所から登場しようとも思ったんだけれども、大騒ぎになったので今回は慎重に行こうと思ってね」
未来の法律がどうなっているかは知らないが、国や地域によって文化が違うことがあるのだから、時代によってルールも違うことは当然踏まえておくべき事柄だ。
どうやら、このガイドと名乗る奴は、そういった常軌を持ち合わせていないらしい。
「それで今回ボクが来たのは、とある使命のためなんだけど……」
なにやら色々と説明していたが、元からこんな人間の話を真面目に聞く気にはなれないので、話の内容は記憶にない。
未来人はどいつも“こんな”なのか、それともこの未来人が特別異常なのか。
いずれにしろ、こんな不躾な人間にタイムスリップさせるあたり、未来の法はまともに整備されていないようである。
説明が数分経ったとき、さすがに俺の訝しげな態度に気づいたようだ。
「あれ……もしかして、ボクの話を信じていない?」
「そもそも、どこの誰かも分からない人間の話を、無条件で信じる方がおかしいと思うんだが」
「いや、『どこの誰か』って。ボクの名前はガイド、そして未来から来たって……」
「だから、それが嘘か本当か俺には分からないから、信じるに値しないって言っているんだ」
ガイドと名乗るその女は、如何にも考えていますといったような仕草をオーバーにしてみせる。
すると、腰についたポーチからおもむろに珍妙なオブジェを取り出した。
言動が、いちいち癇に障る。
「じゃあ、見ててよ」
≪ 前 起きた現象は、言葉にしにくい。 とりあえずすごいアイテムである、ということだけは伝わった。 そのために人の家の庭を無惨にしたことが何よりもショックだったが。 こい...
≪ 前 「じゃあ、お前が未来から来たってのは分かった。信じよう」 「や、やっと信じてくれた……じゃあ本題だけど」 「でも、お前の話を全面的に信じるかはまた別の話だろう」 ...