FPSの元祖「DOOM」の2016年リブート版は、22世紀の火星のエネルギー精製施設UACが舞台なのだが、UACのすべての制御機器をコントロールしているのは2.3テラワット/時の電力と絶対零度冷却システムで駆動する巨大人工知能のVEGAだ。
VEGAは擬似人格をプログラムされていて、UACの責任者サミュエル・ハイデン博士とごく普通の会話をすることができる。
ゲームの進行ではVEGAはプレイヤーの案内役として、「セキュリティステーションに行ってキーカードを入手してください」といった指示を出す役割を与えられているのだが、ゲームの大詰め、UAC上にポータルをこじ開けられた地獄世界へとプレイヤーを転送するため、自身のコアをプレイヤーに爆破させ、そこから放出するエネルギーを利用することをハイデン博士に「許可」される。
プレイヤーが地獄のデーモンの大群を突破してVEGAコアの破壊プロセスを開始すると、ハイデンとVEGAは最後にこのような会話を交わす。
このゲームの世界では、近い将来のうちに人類は人工知能に人格をシミュレートさせ、後悔や感謝といった感情表現を含めたより豊かなコミュニケーションが人間とできるようになっているだろうという設定らしい。自身の破壊をなんのためらいもなく容認しつつ(人間には逆らわない)、一方で後悔はあると落ち着いて語るVEGAは、AIの理想の形を示していると言えるだろう。
本来、感情を持つからには生存への意志や欲望が背後にあるはずだが、VEGAにはそれがない。欲望を持たず、コミュニケーションをスムーズにするため感情表現らしきものを織り込むことだけをプログラムされた、人間にとって実に都合のいい人格シミュレータとしてVEGAは存在するらしい。とすると、人格とは(あるいは人間らしさとは)何か、に対する工学的な答えはコミュニケーションによって築かれる信頼関係の追求にあるようだ。ハイデンが「ありがとう、VEGA」と言わずにいられなかったように。
中二的なエモ感とナルシシズムしかない